昔々、その昔。どっかと中央にいたのが混沌という帝王。どうしたわけか、のっぺらぼうで、それを気の毒がった南の帝王と北の帝王、手厚いもてなしのお返しに、これは目、これは鼻と一日一つずつ、穴を開けてあげた

 よかれ、とやったことながら、七つの穴がうがたれるや事態は急転した。『荘子』は短く記している。<七日にして混沌死す>。ここでいう混沌は、ありのままの自然の象徴だという。深い哲学が語られているのだが、いらぬ世話のたとえ話としても、引き合いに出されるくだりである

 米軍がイラクで、イランの実力者ソレイマニ司令官を暗殺した。それを指示したトランプ米大統領もきっと「よかれ」とやったことではあるのだろう。ただし、今回も「わが身に」との冠付きで

 司令官は、大統領候補にとの声も上がるほど、英雄視されている人物である。イランの反発が尋常でないのは当然だ。核兵器開発や武力衝突にもつながりかねない

 「米軍や米外交官への攻撃を計画していた」とするが、その証拠はあるか。政府内でも殺害する必要があったか、懐疑的な見方も出ているという。中東和平に害をなす軽挙妄動、まさしくいらぬ世話である

 丁寧に扱わないと、混沌は想定外の結果をもたらす。この人なら大戦争でも起こしかねないと、かなり本気で思えてきた。