東祖谷地域の雑煮は豆腐とサトイモを使う。豆腐が硬くなければできない盛り方=栗枝豆腐店

出来上がったばかりの岩豆腐。大きくて硬さがある=栗枝豆腐店

 三好市東祖谷に伝わる雑煮は、餅の代わりに豆腐を使うことで知られる。地元産の豆腐は独特の硬さがあり、山間部の素朴な食生活を今に伝えている。雑煮は思いのほか地域性に富む料理。正月明けの職場などで雑煮談義が盛り上がるかもしれない。
 
 空が白み始めた午前7時すぎ。祖谷街道の気温を知らせる電光掲示板は、マイナス1度を示していた。三好市東祖谷落合で営む栗枝豆腐店。作業場から湯気が立ち上り、早朝から慌ただしい様子が伝わる。熱気で曇る出入り口のガラス戸を引くと、できたての豆腐が目に飛び込んできた。

 祖谷地域に古くから伝わる豆腐は「岩豆腐」とも「石豆腐」とも呼ばれる。大豆を多く使い、水分をよく搾るため硬さがある。縄で縛っても、崩れず持ち上げられるほど。冷蔵庫のなかった時代に険しい山道でも持ち運びしやすく、日持ちさせる知恵だった。サイズも一般的な豆腐の2倍はある。

 この岩豆腐を作る店の一つが栗枝豆腐店。40年以上携わる栗枝玉子さん(76)は「縄で縛ったところで多く運べないので、昔は一斗缶に入れて背負ったり、風呂敷に包んだりして運んでいた」と明るく説明する。地元名物の田楽も、この硬さがあってこそ。西祖谷のかずら橋周辺で売られる田楽の豆腐はこの店が広めた。

 水に一晩以上浸した大豆を機械でひき、その汁を煮た後、布で搾りおからと分ける。汁ににがりを加え、金属の型枠に流し込み、重りを使って水分を徐々に押し出していく。

 できたてを一口いただく。木綿豆腐よりも粗い舌触り。しっかりしたかみ応えと大豆の風味を感じる。「これでないと食べた気がせん。街の豆腐はプリンみたい。プリンはまだ甘いからいいけど」と栗枝さんは笑う。

 東祖谷伝統の雑煮を披露してもらう。おわんにサトイモ3個が入り、いりこだしのすまし汁が注がれる。その上に、長方形に切った豆腐を二つ重ねる。武士が刀を合わせた様子に見立てて「打ち合わせ雑煮」、「打ち違え雑煮」といわれる。豆腐がおわんからこぼれ落ちそうだ。

 山深く傾斜が険しい祖谷地域は稲作に適さないため、餅の代わりに豆腐が使われるようになったと伝えられる。昔はどの家庭も畑作による自給自足の生活を送り、豆腐も各家庭で作っていた。しかし、非常に手間がかかるので「ハレの日」のごちそうだった。餅が手軽に手に入る現代でも昔ながらの雑煮を好む人は多い。

 栗枝豆腐店は1976年、林業に従事していた弘さん(79)と夫婦で開業した。間伐材のまきを有効活用しようと大きな鍋を使う豆腐屋に目を向けた。現在は三女一男が豆腐作りの中心を担う。過疎化が進む山間部で地道に作られ続ける岩豆腐。家族の和気あいあいとした作業風景に触れ、味わいが増す思いがした。

 栗枝豆腐店は、岩豆腐を近くの商店に卸すほか、午前8時から午後4時半ごろまで直売している(売り切れ次第終了)。豆腐300円、こんにゃく170円=いずれも税込み。日、木曜定休。問い合わせは同店<電0883(88)2944>。