米国とイランの軍事的報復の連鎖はひとまず回避されたが、極度の緊張状態にあることに変わりはない。双方には一段の自制が求められる。

 対立が続くイラン情勢は、米軍によるイラン革命防衛隊の司令官殺害を受け、イランがイラクの米軍駐留基地2カ所に弾道ミサイル十数発を撃ち込んだことで一気に緊迫。トランプ米大統領の出方が注目されていた。

 トランプ氏は演説で、米側に犠牲者が出なかったことなどを理由に、軍事的報復をしないと表明するとともに、新たな経済制裁で圧力をかけ続ける方針を強調した。

 懸念された全面衝突の事態が避けられたことは歓迎できる。とはいえ、基本的な対立の構図は同じだ。一触即発の恐れも残っており、緊張緩和への道筋は依然見えない。

 殺害された司令官は、シリアのアサド政権やイラクのイスラム教シーア派民兵に対する軍事支援の中心的な役割を果たしてきた。いわば、イランが進める対外工作の「顔」とも言える存在だった。

 葬儀には数百万人が参列し、イランの最高指導者ハメネイ師が哀悼の意を表明したことでも衝撃の大きさがうかがえる。殺害に踏み切ったトランプ氏の意思決定が、緊張を大幅に激化させたことは間違いない。

 トランプ氏は「差し迫った脅威に対する自衛手段」と殺害を正当化するが、脅威とする証拠を示さず、他国の領土での攻撃に国内外から疑問の声が上がっている。

 ウクライナ疑惑の弾劾訴追から国民の関心をそらす狙いや、11月の大統領選を意識し支持者に「強い大統領」をアピールするためとの見方もある。そうだとすれば、あまりに身勝手で、短慮と言わざるを得ない。

 イランの報復攻撃はハメネイ師の宣言通りだったが、米軍に大きな被害が出ないよう周到に計画された可能性が指摘されている。一方、トランプ氏も今回の攻撃について直接的な非難を避けた。

 本格的な武力衝突は望んでいないとする双方の思いが透けて見える。ただ、このまま幕引きが図られると考えるのは早計だろう。国連をはじめ国際社会は、外交的解決へ尽力すべきだ。

 看過できないのは、イランが2015年に欧米などと結んだ核合意逸脱の最終措置として、ウラン濃縮を無制限で進めると表明したことだ。

 日本や欧州主要国はイランに対し、合意の全面履行に戻るよう何度も呼び掛けてきたが、またも無視された。

 核合意は崩壊寸前である。イランが核開発に走れば国際的に孤立し、経済的にさらに窮地に陥る。指導部は冷静さを失ってはならない。

 日本政府も中東情勢の変化を見極める必要がある。とりわけ、海上自衛隊の派遣は懸念が大きい。時宜にかなうのか、イランや親イラン派への誤ったメッセージとならないか。改めて協議すべきだ。