近い将来に起きるとされている南海トラフ巨大地震を巡り、紀伊半島―九州の海岸から数十キロ沖合の海底下でプレート境界が強い揺れを出さずにずれ動く「ゆっくり滑り」が2008~18年に少なくとも4回発生したのを観測したと、東京大と海上保安庁のチームが15日までに発表した。想定される震源域の南側、深さ20キロより浅い地下とみられるが、巨大地震との関係は分かっていない。
ゆっくり滑りは地震計では捉えられないが、地面の動き(地殻変動)に現れるため、陸上に置いたGPS機器などで観測されている。11年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の前にも震源近くで起きたと考えられているが、観測できるのは陸に近い海域に限られていた。チームの横田裕輔東京大講師(海底情報学)は「巨大地震との関係を解明するため観測を続けたい」としている。
海保が南海トラフ沿いの海底に機器15台を設置。年に数回、衛星と測量船でのデータを回収し、分析した。その結果、紀伊半島や四国、九州に及ぶ海域の計7カ所で、5~8センチのゆっくり滑りとみられる地殻変動が起きていたと結論した。周辺では海のプレートが陸の下に沈み込んでいるが、ゆっくり滑りはこれとは反対の方向だった。
7カ所は、地下のプレート同士が強くくっついた固着率の高い領域の周辺。昭和の東南海地震(1944年)や南海地震(46年)などでは、こうした領域が一気にはがれ、強い地震が起きたと考えられている。15日付の科学誌サイエンスアドバンシズ電子版で発表した。
ゆっくり滑り プレート境界が数日~数年かけてゆっくりすべる現象。別名スロースリップ。ゆっくり滑りのほか、10~100秒程度で1往復する非常にゆったりした揺れを起こす超低周波地震なども含めて、人が感じる揺れを生じないでプレートがずれる現象を「スロー地震」といい、千葉県東方沖や四国沖、九州の日向灘などで観測されている。2011年の東日本大震災などの研究から、スロー地震が巨大地震の引き金となる可能性が注目されている。