<土砂に埋まって/さいごまで/指と指しかふれられなくて/息子は/ありがとうと言いました/この春大学卒業だった>。阪神大震災の翌年、出版された『五十年目の戦場・神戸』(かもがわ出版)から引いた

 著者の車木蓉子さんは、神戸市東灘区の市営住宅で被災。寝間着のまま、はだしでさまよう。変わり果てた街は、9歳だった50年前の光景と重なった。空襲で廃虚となった神戸の街。3歳の弟を背負い、生まれて10日の妹を抱いて立ち尽くすほかなかった

 2度の被災が車木さんを突き動かす。見たこと、聞いたこと、感じたことを詩と文にした。<まっくらななか/お兄ちゃんの手ひいて逃げました/寒かったけど運動場におりました/お兄ちゃん障害があるんです/それで/わたしが男の子で力もちだったら/お母さん助けられたのに/荷物も出せたのに>

 出版に合わせ、市民団体「神戸をほんまの文化都市にする会」が朗読劇をすることになった。市民に出演を呼び掛けると、60人以上が手を挙げた

 公演の依頼が相次ぎ、全国各地に出向いた。が、時の経過は人々の関心を震災から遠ざけ、公演は2005年が最後となる

 それから、さらに15年。今年も1月17日が巡ってきた。あの日の記憶が薄れていく中、車木さんの一編一編が「忘れてはいけない」と語り掛けてくる。