各国間の貿易紛争を解決するために設けられた、世界貿易機関(WTO)の司法機能がまひ状態に陥っている。

 最終審に当たる上級委員会で、委員3人のうち先月、2人が任期切れとなり、審理ができなくなっているのだ。WTOの在り方に不満を持つトランプ米政権が、委員補充に反対してきたのが原因だ。

 通商ルールに違反した国を裁く「紛争処理制度」が機能不全になれば、戦後の世界経済の発展を支える自由貿易体制の信頼が低下し、保護主義が拡大する恐れが強まる。

 国際社会は、機能回復に向けた有効策を早急に打ち出してもらいたい。

 WTOの司法機能は、当事国間で解決できなかった場合に、一審に当たる紛争処理小委員会(パネル)で審理し、その結果に不服があれば上級委に申し立てすることができる。上級委の判断は法的拘束力もある。

 定員7人(任期4年)のうち、最低3人で各案件を審議することになっており、補充や再任など意思決定に際しては164の加盟国・地域の全会一致を原則としている。しかし、米政権が2017年以降、一貫して拒否していることからメンバーは減り続けていた。

 米国は反対理由として、委員の権限を越えた判断が下されていることや、審理に要する期間の長期化などを挙げており、賛同する声も少なくない。とはいえ、トランプ政権には問題点をWTOで議論し、改善しようとの意思は見えない。世界最大の経済大国として無責任すぎよう。

 WTOは、現在上訴中の14案件のうち、4案件は任期切れとなった2委員も担当し結論を出すとしているが、残りの10案件と新たに上訴されるものについては、新委員が就任するまで放置される。

 今後は、一審で敗訴しても上級審に持ち込めば審理されなくなる。このため、米国発の貿易摩擦のようなケースが増えるほか、多国間交渉から2国間にシフトする流れが加速する事態も想定される。交渉国間の関係や経済に悪影響を及ぼす懸念も拭えない。

 正常化に向け、定員増や任期の延長などが出ている。ただ、どれも緊急事態には対処できそうにないという。

 事案によっては多数決の採用や、任期が満了したメンバーに後任が決まるまで一定の条件下で審理の継続を認めるなど、現実的な案を検討する必要があるのではないか。

 今年で発足25年を迎えるWTOは、01年に始まった新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が停滞し、通商ルールを作る立法機能が低下している。司法機能もストップすれば、存在意義さえ問われることになろう。

 当面の焦点は、6月にカザフスタンで開かれる閣僚会議までに、米国を交えて改革への論議を加速させられるかどうかだ。「自由貿易の旗手」を自任する日本も座視するわけにはいかない。