写真を拡大 県内24市町村の女性管理職の割合

 「社会のあらゆる分野において指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%にする」という政府目標の期限である2020年を迎えた。県内24市町村を対象に、課長級以上の管理職に占める女性の割合(19年4月1日時点)を徳島新聞が調べたところ、7%から50%までばらつきがあり、17市町村では30%に満たなかった。割合が高い自治体でも配置が福祉分野に偏るケースが目立った。市町村における男女共同参画の現状を探った。

 女性管理職の割合が最も低かったのは徳島市の7%、最も高かったのは東みよし町の50%だった。徳島市は理由として「年齢が上がるほど全職員における女性の割合が低くなること」を挙げる。しかし、女性職員の割合は40代44%、50代39%と著しく低いわけではない。それでも係長級以上の女性の割合すら17%にとどまる。

 ただ、管理職の位置づけは自治体によって異なり、単純比較できない面もある。

 徳島市は、計25ある市立保育園・認定子ども園の長は課長級ではないが、東みよし町は課長級の女性が保育所と幼稚園に計8人おり、割合を押し上げている。女性管理職割合が4割を超える藍住町や板野町でも同様の要因がある。

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 つるぎ町は現在、「課長」と名が付く女性がいない、県内唯一の自治体だ。町議会では理事者側にずらりと男性ばかりが並ぶ。課長級以上57人のうち、女性は8人で14%を占めるが、大半は議会答弁や部下の人事評価は担わない「主幹」ポストにとどまる。

つるぎ町議会本会議。議員側には3人女性がいるが、理事者側は男性ばかり=2019年12月

 大垣浩志副町長は「昔は男性職員の採用者が多かった。加えて、議会対応など対外交渉の場で男性を前に出してきた経緯もある」と背景を説明する。

 一方、北島町は課長級15人のうち、7人が女性だ。主幹ポストはなく、全員「長」が付く。古川保博町長は「能力主義で採用し、登用していった結果が今だ。特別なことはしていない」と話す。

 複数の自治体が女性登用の課題として挙げた「女性の管理職への意欲が乏しい」という状況は、北島町ではなかったのか。古川町長は「男性でも管理職になりたがらないケースはある。実力を認めた上で、バックアップを約束し、安心させるのが大切」と述べ、任用する側との信頼関係が重要と指摘した。

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 登用が進む北島町も課題はある。女性管理職のポストは▽総務課長▽住民課長▽民生児童課長▽保育所長▽保険福祉課長▽地域包括支援センター所長▽出納室長兼会計管理者―の七つ。福祉分野が多く、建設や下水道、水道など「事業課」と呼ばれるハード事業を担う課長には就いていない。

 こうした分野の不均衡は、多くの自治体にある。背景には「ケアワークを担うのは女性」といった昔ながらの固定概念が見える。板野町の東根弘幸副町長は同様の傾向があるとした上で、「本年度は防災や消防も担当となる総務課長に初めて女性が就いた。育休を取る男性も出てきており、時代とともに変わっている」と言う。

 松茂町では産業環境課長や建設課主幹が女性だ。松下師一総務課長は「昔から事業課に男女を問わず配置してきた。民間でも建設分野などで働く女性は増えている」としながら「福祉系の男性を増やそうという話もするが、元々受験者が少ない」と説明した。

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 何が管理職への道を阻んでいるのか。女性職員側に聞くと、「家事育児は女性の仕事」という社会の性別役割分担意識のほか、女性にサポート役に徹することを期待する「空気」の存在が根強くあるようだ。

 ある管理職経験者は「誰も言わなければ、女性が会議で資料やお茶を配るなど雑用をしてしまう。一番若い人が担当するなどルールを決めるべきだが、管理職にジェンダー意識がないと慣習が放置されたままになる」と指摘する。別の女性職員は「女性が管理職になりたいと口にすると、『なんでそこまでするの』と止められる」と明かす。昔から無意識につくられた「空気」が、組織の風土として残っている。

 それを変えようとする人たちもいる。市の管理職を務める50代女性は「根気強く励ましてくれる男性上司がいたからキャリアをつくれた。男女が共に仕事をしていくという意識を浸透させたい」と意気込む。「地域をけん引していく役割がある市町村が率先して、女性の登用を始めなければいけない」と続け、各分野で女性の進出に向けて自治体が取り組む意義を強調した。

「職場で仕事の割り振りが男女で均等になっているかを点検を」と呼び掛ける朴木・神戸大名誉教授=神戸市内

「ただニコニコしていて」 は差別、朴木佳緒留・神戸大名誉教授に聞く

 職場のジェンダー問題に詳しい朴木佳緒留神戸大名誉教授に話を聞いた。
 
 ―公か民かを問わず、女性管理職は少ないのが現状です。

 「女性の視点が必要」「人手不足を解消したい」と女性を雇用するものの、長期的な戦力として育成しようとしているのでしょうか。男性は中核になる人材と考えて人事がされてきました。一方、女性は結婚や出産で辞めるのではないかとみられ、リーダーになるプロセスが明示されてきませんでした。
 
 ―「女性が管理職になりたがらない」という自治体側の声もあります。

 職場、家庭、社会の価値観の問題が複合的に作用した結果です。日本の職場では、オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)でスキルや考え方を伝えてきました。ある自治体の議会事務局に勤める女性は「ニコニコして議員にお茶を出してくれるだけでいいから」と言われたそうです。言う側は善意なのでしょうが、それは差別。そうしたことが分かっていない。こうした雰囲気を変えていかねばなりません。
 
 ―改善策は。

 首長や実務責任者が本気で女性の登用に取り組むことです。配置や期待、仕事の割り振りが、男女で均等になっているかを点検し、性別にかかわらずワークライフバランスの実現を目指して、キャリアコースを明示的に掲げます。

 家庭の事情はさまざまですから、職場で「フォローしますよ」という雰囲気も重要です。私は別居婚で、1人で子どもを育てながら働いてきました。そんな私が「大丈夫」と言うと、女性研究者は安心するんですね。ロールモデルを提示しながら、背中を押すことも大切です。
 
 ―世界経済フォーラムが昨年末に発表した男女平等度ランキングで、日本は153カ国位中121位と過去最低の順位となっています。

 政府が「女性活躍推進法」を制定し、どの組織も「女性登用」と掲げざるを得ないけれど、建前にしかなっていない。今の60代以上は、高度成長期の「父が稼ぎ、母が支える」仕組みで豊かになった成功体験を引きずっているんです。

 しかし、これからの世代はそれではやっていけない。それが明らかなのに仕組みを変えないのは、日本のリーダーたちが今の「惨状」を認識していないことの表れでしょう。

 ほうのき・かおる 1949年、島根県生まれ。専門はジェンダー論、教育学。神戸大で男女共同参画推進室長、発達科学部長、学長補佐などを歴任。現在、同大名誉教授で、京都教育大監事も務める。

◆編集後記
 2016年に全面施行された女性活躍推進法は、自治体に女性管理職の割合などの目標を盛り込んだ行動計画の策定を義務付けている。ウェブサイトで公表された計画を読むと、「女性の職域拡大を目指す」「多様なポストに登用する」といった言葉が並ぶ。

 朴木佳緒留・神戸大名誉教授はこれが「建前」にしかなっていないと言う。私も取材して、女性管理職の少なさや分野の偏りの是正を優先事項とする自治体は少ないのではないかと感じた。ある自治体では「記者さん、もっと社会的なことを取材してください」とすら言われてしまった。(ジェンダーの取材をしていると、たまに投げ掛けられる言葉だけれど・・・)

 また、自治体が「女性登用」を掲げる一方で、多くの非正規雇用の女性がいる。その不安定な立場は「官製ワーキングプア」とも呼ばれる。県内24市町村の非正規職員は計4106人。うち75%に当たる3092人が女性だ。

 「女性活躍」を空虚なだけのスローガンに終わらせない取り組みを求めたい。