「言える立場ではないが、加害者を許せないと思います」。見知らぬ女性の胸を触るなどして強制わいせつ罪に問われている徳島市の元会社員の男(36)は、被告人質問で弁護人に「自分の子どもが被害に遭ったらどう思うか」と問われ、小さな声で答えた。

 男は昨年11月、徳島市のスーパーマーケットの駐車場で女性の車に乗り込み、胸を触った上、キスしようとしたとして逮捕、起訴された。店から出てきた女性に「出てくるの待ってたよ。かわいいから」などと声を掛けて犯行に及んでいた。「妻が妊娠中で性的行為ができず、欲求不満の状態だった。直前にAVサイトを見ており、女性に声を掛けて触りたいと考えた」などと、動機について供述した。

 男には妻のおなかにいる赤ちゃんのほかに、幼い娘が2人いた。証人尋問で妻が「長女はパパが何か悪いことをしたとうすうす気付いており、不安定になっている」と話すと、傍らで涙を流し、「被害者の母親の『犯人を許せない』と思う気持ちは、わたしも娘を持つ親として分かる」とも語った。

 自分がその原因をつくっておきながら、憤る被害者の母親に共感の気持ちを示す。どの口が言っているのか。驚くべき発言だが、おそらく男は大まじめに、正直な気持ちを話していたのだと思う。

 妻の証言によると、娘たちは父親になついており、逮捕後に離婚を考えたが、「パパといたい」と言われ思いとどまったのだという。良き父親だったこの男は、誰かの娘であり、自分が娘に接しているように大切に育てられたであろう見知らぬ女性を襲った。男の中で、かわいい自分の娘たちと、身勝手な欲望の対象にした女性は決してつながらない。

 それはひとえに、女性に対する客体化がなせる業だと思う。男にとって被害女性は、欲望を満たす単なる女のすがたかたちをした「モノ」に過ぎなかった。感情や人格があり、愛し愛される人のいる人間だとは認識していない。そうでなければ、面識もないのに車に押し入り、拒絶されながらも無理やり体を触るような行為は到底できないだろう。

 女性の心情を思うといたたまれない。車内という密室空間で体格にまさる男に体を触られ、「殺されるかも」と死の恐怖を感じたかもしれない。意思を無視され「モノ」のように扱われたショックは、どれほど大きなものだろうか。

 しかも、男は大学時代に女性の尻を触って罰金刑を受け、犯行の3年ほど前には、別の女性に対し執拗に声を掛けたことで警察から「警告」されていた。法廷では「日常的に女性に声を掛け、そのまま性的行為をすることもあった」とも供述した。一体どれだけの女性たちが、尊厳を踏みにじられてきたのだろう。

 女性に対するゆがんだ認識を改めない限り、男はまた犯行に走るだろう。反復して起きる性的逸脱行為は「性依存症」の可能性が高く治療が必要だが、日本では性犯罪者を医療につなげる体制が確立できていない。この男も検察官にカウンセリング治療を勧められたが、「家族の生活を立て直すのが優先事項で、高額な治療には通えない」と話していた。

 懲罰を受けて犯罪行為に対する責任を取ることも重要だが、男が犯行を重ねれば新たな被害者がうまれる。そんな事態を防ぐためにも、日本はそろそろ本格的に、治療支援も含めた再犯防止策を講じていくべきなのではないか。(え)

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