好評連載の2回目は福岡晃子さんが執筆を担当。
【2】チャットモンチーになりたい~第1章~
「バンドやんよんやけど、ライブ見にけえへん?」
大学受験のために通っていた塾で仲良くなった女の子の口から発せられた予想外の言葉に、一瞬動きが止まってしまった。
成績優秀、性格温厚、いわゆるバンドをやっている人の雰囲気とは程遠いイメージの、可愛らしい子だった。どうやら女の子3人でバンドを組んでいるらしい。彼女の担当はベース。それもなんか意外だった。
当時、音楽はメロディック・ハードコアバンド全盛期。そして若い子達の間でクラブミュージックが流行り始めた時期でもあった。中学生の頃はロックが好きだったけれど、高校生になる頃には周りの友達の影響でHipHopダンスを習いに行き、クラブミュージックの方を日常的に聴くようになっていた。だからその頃の徳島のライブハウスシーンのことは全然分からなかったし、正直そこまで興味もなかった。
とはいえ、このぽわ~んとした感じの友達がライブをやっているところはぜひとも見てみたいと思い、ライブのチケットを買わせてもらった。
一般的に抱かれるライブハウスやバンドマンのイメージは、今も昔もそれほど変わってないように思う。不良ばっかり、お金ない、ちゃらちゃら遊んでそうetc…。
高校生である上に一応、女子。夜遅くにライブを見に行くことを反対しない親の方が少ない。「友達の家に泊まる」とうそをついて、ライブを見に行くことにした。
薄暗く細い階段を降りて行くと、中学生くらいの小柄な女の子がチケット受付をしている。こんな子もライブハウスに出入りしてるのか、とぼんやり眺めていた。
早速ライブが始まるようで、私の友達がステージに上がる。するとその隣にさっきの受付の中学生みたいな女の子がギターを担いでいる。ギターの至る所にガムテープが貼ってあり、肩にかけるストラップの根元は五円玉で固定。ギターの弦の余った部分が頭の方にびょんびょんと元気よく飛び出している。楽器に詳しくない私でも、それが新品のギターでないことは明確なほど、なんともワイルドな楽器を持った中学生風の女の子。しかも、どうやらこのバンドではギターボーカルらしい。
お察しの通り、そのバンドこそ後に私がベーシストとして加入し、人生を捧げることになるバンド「チャットモンチー」であった。そしてこの中学生の風貌(当時立派な高校生)の彼女こそが、現チャットモンチーのリーダーでありギターボーカルを務める橋本絵莉子であった。もちろんこの後15年以上連れ添う相棒になることは、お互いまだ知る由もなかった。…次章に続く。(福岡晃子)