東京国税局から東京地検に法人税法違反の疑いで告発されたアンサンブル・セシリア(東京)の川岸美奈子代表取締役(57)は、東京交響楽団のメンバーらでつくる「とくしま国民文化祭記念管弦楽団(とくしま記念オーケストラ)」と県をつなぐプロデューサーとして、県の事業に関わってきた。楽団関連事業費は文化行政に積極的な飯泉嘉門知事の姿勢を受け、2016年度は5年前の約10倍に膨らんでいる。ただ、この資金が川岸社長にどう流れていたかはベールに包まれ、主催者の県ですら「分からない」とする。
 
飯泉知事は特に、東京交響楽団桂冠(けいかん)指揮者秋山和慶氏が音楽監督を務める、とくしま記念オーケストラによる音楽イベントに力を入れており、11年にオーケストラを設立して以降、楽団関連事業費が伸びている。16年度はベートーベンの第九交響曲のアジア初演から18年に100周年を迎えることから、大規模なコンサートを開くなどしたため、2億3千万円に上った。

 だが、文化事業費の流れの分かりづらさはかねて指摘されていた。事業費が基金から支出されたり、イベント会社を介して支払われたりしているためだ。

 県とくしま文化振興課などによると、県の主な文化事業は県や県文化振興財団が担う。事業費は県費や国などの助成金のほか、県内の文化団体や有識者らでつくる「文化立県とくしま推進会議」が積み立てている基金から支出されている。

 基金の活用は、文化関係者の意見を反映して柔軟にイベントを開催できる利点がある。一方、基金の使途が議会の議案に盛り込まれず、十分なチェックを受けないため、文化関係者からも「ブラックボックス化している」との声が聞かれる。

 事業がイベント会社などへの委託方式で行われるため、詳細な支出状況の把握が難しいとの問題もある。指揮者や楽団員の演奏料や旅費、楽器運搬費、会場設営費などは委託業者を経由して支払われる。業者が財団に提出した見積書には「演奏料」「舞台監督料」など細目別に金額が並ぶが、川岸氏の報酬に該当する細目や金額がどれかは判然としない。

 記念オーケストラの演奏会などを複数回委託されてきた徳島市のイベント会社は、徳島新聞の取材に「いろいろな人に迷惑が掛かるかもしれず、応じられない」と回答した。

 とくしま文化振興課は「委託業者がどこにどれだけの支払いをしているのか、細かいことは把握できない。川岸氏に支払われている金額も分からない」としている。