国公私立大の入学者選抜方法が変わり始めた。31年続いた大学入試センター試験の後継として、大学入学共通テストが始まる2020年度は、大学入試改革の年となる。
背景には、科学技術の進展や経済のグローバル化、少子高齢化に伴う労働力人口の減少など、技術革新と社会構造の急速な変化に対する危機感がある。
「人工知能(AI)の進化により、現在ある仕事の多くが人からAIやロボットに置き換わる」。そんな時代を生きる今の子どもに必要な学力とは、どのようなものか。
政府の教育再生実行会議は、13年にまとめた第4次提言で「知識の暗記に偏った1点刻みの大学入試では、入学後の学びにつながっていない」とし、高校段階で養うべき多面的な力の育成が軽視されていると指摘した。
能力や意欲、適性などを多角的に評価する入試への転換。そこを目指す改革の柱の一つが、大学入学共通テストの導入だった。
「何を知っているかという知識中心の教育から、さまざまな場面で知識を総合的に活用できる力を重視する教育に先進国はかじを切っている。日本の大学入試改革もこの流れの中にある」。経済協力開発機構(OECD)教育スキル局でアナリストを務めた経験がある、独立行政法人大学入試センター試験・研究統括補佐官の白井俊さん=元徳島県教委教育総務課長=は、入試改革の意義をこう説明する。
ただ、肝心の大学入学共通テストは、導入を巡って混乱した。問題となったのは、入試の公平性や厳密性が守られるのかという点への疑念だ。
例えば、導入予定だった7種類の英語民間検定試験で、徳島県に試験会場を置くと公表していたのは英検とGTEC(ジーテック)の2種類のみ。東京などの大都市圏と比べ、受験機会に差があるのは明らかだった。試験日程が決まらないなど準備の遅れも重なり、教育現場で不安の声は絶えなかった。
しかし、こうした混乱の中にあっても、入試改革が目指す方向性を評価する声は少なくない。元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんもその1人だ。
佐藤さんは強調する。「(人口減が急速に進む)日本の社会を強化するには、教育をきちんとやらないといけない。ところが、入試に合格した瞬間から英語力が落ちていくなど、今の教育には構造的な問題が山積している。入試が変わると学びが変わる。改革の方向性は正しい」
各大学の個別入試に目を移せば、危機意識の高い大学はAO・推薦入試を中心に変革の動きを止めていない。明確な目的意識を持つなど、大学入学後に伸びる素地がある学生を獲得するための選抜方法に仕組みを変え、その定員枠も増やしてきている。
中学や高校の教育現場でも変化は着実に起きている。大学入試改革が問い掛けた「知識詰め込み型教育」の限界に対する問題意識は、教育現場に根を下ろし始めている。
AI時代を生き抜く学力とはどのようなものか。全国の先進的な取り組みを取材した。
大学入学共通テストを巡る混乱 2021年1月にスタートする大学入学共通テストでは、英語の4技能(読む、聞く、書く、話す)を測る民間検定試験の活用と、思考力や表現力を試す国語と数学の記述式問題の導入が改革の目玉だった。だが文部科学省は昨年11月、居住地域や経済状況で受験機会に格差が生じると批判された英語民間検定試験の見送りを表明。12月には自己採点の難しさや採点ミスへの懸念があった記述式問題の延期も決めた。