古武道と聞いてどんなイメージが思い浮かぶだろうか。一般的には明治維新以前に成立した剣術や体術などを指し、剣道や柔道、弓道といった現代武道と区別される。伝統的な古武道が近年、護身術や文化継承の観点から見直されつつあるという。徳島県に伝わる剣術「柳生神影流」を受け継ぐ石井町の道場を訪ねた。
「相手より姿勢を低く」「相手になるべく近寄ることが大事。離れると切られるよ」
石井町浦庄の久武館道場。趣のある板張りの場内に5代目館長の戸村博史さん(44)の声が響く。久武館は安土桃山時代から徳島に伝わる剣術「柳生神影流」を今に伝えており、3歳から34歳までの30人ほどが週2回稽古に励んでいる。
一見するだけで、剣道の稽古との違いに気付く。まず全員が木刀を扱い、防具は着用しない。それぞれ短刀や中刀などを持ち、相手の攻撃をかわして瞬時に切りつける。一対一だけでなく、2人相手など状況もさまざま。その動作は、時代劇の殺陣を見ているかのようだ。
柳生神影流は、正式名称を「阿州柳生神影流兵法剣術」といい、江戸時代に全国に広まった剣術流派「柳生新陰流」の一つ。新陰流流祖で徳川家臣の柳生宗矩の命により、阿波国に派遣された門下の木村郷右ヱ門尉義邦によって伝えられたとされる。また、空手流派の一つ「和道流」に影響を与えたという。
柳生神影流の特徴は「当たらない」「絶対に当てられない」。他県に伝わる柳生新陰流に比べて、相手の攻撃を受け流し、その力を利用して制する動きを重視している。
久武館は、柳生神影流の免許皆伝を得た石井町出身の久保利雄が1905(明治38)年に開いた。時代とともに、各地の剣術道場が廃れた中で、現在も活動が確認されている剣術流派は四国でもここだけという。
若い門下生にとっては、固有の文化に関心を持つ機会にもなっている。剣道を習っていた徳島北高2年の筒井雅也さん(17)は「剣術は型が決まっていない。臨機応変に対応しなければいけないので難しい。英語を学んで海外の人にも教えたい」。名西高2年の相原瑞穂さん(17)も「将来は幼稚園の先生になりたいので、子どもたちに日本の文化を教えられるようになれたら」と話す。
イタリア出身の中川マルツィア・フリオネさん(22)は夫と共に稽古に励む。「歴史のある道場で学べてうれしい」とほほ笑む。
戸村館長は徳島ならではの剣術を発信しようと、2017年にNPO法人・徳島県古武道協会を設立。近年、地元の幼稚園や学習塾で護身術や心構えを学ぼうとする体験学習の依頼が増えているという。近畿や四国の2府3県の神社で奉納演舞を披露して普及にも努めており「古武道を通して徳島の素晴らしさを伝えていきたい」と話している。