徳島を元気にする事業アイデア・プランコンテスト「とくしま創生アワード」の最終審査会が16日、徳島市の阿波観光ホテルであり、各部門の計3組がグランプリに選ばれた。50件の応募の中から書類審査を通過した9組と学生賞1組が独自のプランを発表し、サポーターを務める徳島ゆかりの起業家や実行委のメンバー、金融機関の担当者らが審査した。グランプリ受賞者の思いや最終審査に進出した事業プランなどを紹介する。

アイデア部門 グランプリ 篠原好彦さん(鳴門市)
アカマツ林を再生しマツタケを取り戻すための

木質バイオマスを活かした拠点づくり

篠原好彦さん

 「自然エネルギーを普及させる」という壮大なアイデアを発表した篠原好彦さん(65)。この事業は、2017年に徳島市で開かれた「まちエネ大学」(経済産業省資源エネルギー庁主催)がきっかけで生まれた。

 まちエネ大学の参加者はグループごとに再生可能エネルギーを使ったローカルビジネスを考案。修了後も検討を続けたものの、活動は下火になっていった。製薬会社に勤めていた篠原さんは昨春の退職を機に、「このままではもったいない」と一念発起。実現を目指そうとアワードへ応募した。

 目指す事業の出発点は、マツタケ山作り。資金を確保するとともに、間伐材をバイオマス発電に利用しようと、高価格の需要があるマツタケに着目した。「昔はまきを取るために山に入り、手入れがされていた。マツタケを栽培すれば里山を復活させることになる」

 製薬会社時代に培った技術や知識を生かし、当面はマツタケの人工栽培に向けた実証実験に取り組む考えだ。

 グランプリの発表を聞いて「思わぬ結果に驚いた」と言う。一方で「好意的な皆さんの反応を見て可能性を感じている」と手応えも得た様子で、第二の人生に情熱を燃やしている。

事業内容紹介 自然エネルギーの拠点づくりを進める。3段階のステップを考えており、まずマツタケの人工栽培を成功させてアカマツ林を栽培に適した環境に整備する。マツタケの販売収入による事業資金の確保と里山の再生が目的。次に、山を整備する際に出る間伐材を利用して木質バイオマスの発電施設兼活動拠点を設ける。最終的には、自治体や地元企業が一体となって100%賄える再生可能エネルギーを開発して普及させる新電力会社を立ち上げる。

藍生産機械化で作業負担軽減
阿南高専創造技術工学科5年 野田篤志さん(20)

 手作業が主である藍の生産工程の一部を機械化し、効率を高めて農家の作業負担を軽くする。竹の棒でたたいて行う種子の分離・選別作業を代行する小型機械を開発し、販売や貸し出しをする。導入すれば、生産能力を2倍に向上でき、ソバなどの作物にも応用可能と見込んでいる。近年は藍人気が高まり、県内の生産面積は増加傾向にある。機械化で生産性を向上させ、より多くの人に徳島の藍を届ける。

農機具・人材を共有する仕組み
アグリパートナー徳島(美馬市)藤本尚人さん(61)

 インターネットサイトやアプリケーションを活用し、農業者間で必要な農機具や人材を共有する。農機具は購入費用が高額の上、使用期間は短い。生産コストがかさみ後継者不足や耕作放棄の要因になっている。農機具を低価格で貸し借りし合えたり、農作業を代行したりする仕組みを構築する。収益の改善につなげ、小規模農家や新規就農者が安心して農業を継続できるよう支援する。

学生賞 伊藤夏実さん(徳島大医学部医科栄養学科2年)
World Resort
(日常的に英語で世界の国々の文化を
学び合う世界とつながった居場所)

伊藤夏実さん

 「もっと世界とつながりたい」。外国人と交流できるシェアハウスを徳島市内で始めた伊藤夏実さん(21)が、活動の幅を広げる。

 原点はルワンダでの体験だ。2018年4月、大学を休学して向かった。「その土地の人と関わって世界の文化や生活を理解したい」と思い、現地の日本料理店で10カ月間働いた。事前にインターネットで調べていたものの、生活習慣や国民性など現地でなければ分からないことが多かった。

 世界への興味が一層湧き、19年4月、賃貸マンションの2室を活用してさまざまな国籍の人を受け入れるシェアハウスを始めた。

 入居者や知人らと共に各国の料理を振る舞うパーティーを開いたところ、日本人、外国人双方からさらなる交流を求める声が上がった。

 結び付きを強めれば、さらに世界のことを知り理解し合えるのでないか―。国際ボランティアの受け入れ団体のメンバーや地域振興に取り組む人たちに思いを語るうち、「World Resort」の構想が出来上がった。

 アワードへの応募を機に、収支を計算して資金調達の計画を立てた。「受賞して実現させようという気持ちが強くなった。応援してくれる人も増えたので、ほかの学生応募者の分も頑張りたい」と述べ、夢をカタチに変えていく。

事業内容紹介 海外から徳島を訪れる国際ボランティアや留学生たちと、徳島に住む人々が気軽に交流できる場を設ける。徳島にいながら、さまざまな国籍の人同士が多様性を理解する「世界のたまり場」をイメージしている。多言語教室を開いたり、各国のボードゲームや音楽に親しんだりするほか、世界の料理パーティーを定期的に開催してコミュニケーションを深める。子どもも積極的に招き、世界の人たちと互いに助け合える関係性を育てる。

プランI部門 グランプリ 杉井ひとみさん(徳島市)
ペット福祉・アニマルセラピー事業~共生による豊かな人生を

杉井ひとみさん

 徳島の盲導犬を育てる会で長年活動してきた杉井ひとみさん(60)が、「ペットとの共生」を進めるため、新たな事業に乗り出した。

 活動の柱は、セラピードッグの育成と、ペットの介護福祉。動物による癒やし効果を多くの人に広めるとともに、ペットも最期まで豊かな生涯を送ってもらうのが目的だ。

 昨年6月には、セラピードッグに加えて介助犬と聴導犬を育成する「NPO法人補助犬とくしま」を立ち上げ、11月には「ペット介護ステーション ジュエル」(徳島市)オープンさせた。ジュエルは介護が必要な動物だけでなく、健康な犬や猫のホテルとしての利用も増え始めている。

 起業のきっかけは、寝たきりになった知り合いの犬を預かったこと。「介護の方法が分からず、協力者がいない人は他にもいるのでないか」と思い、「どうにかしなければ」という使命を感じた。

 こだわるのは、「とことん飼い主の目線に立つ」。犬のしつけ教室やペットシッター、送迎して獣医師の受診を代行するペットタクシーと、考えているアイデアは尽きない。

 「困っている人を何とかしたい、動物が大好き、そんな思いが仕事になった。これからの人生が楽しくなりそう」と笑顔を見せた。これからもペットに寄り添っていく。

事業内容紹介 患者の治療やリハビリに携わるセラピードッグの育成事業と、高齢化に伴うペットのための介護福祉事業を展開する。セラピードッグは、徳島県動物愛護管理センターで保護された犬に訓練を施して育成する。希望があれば聴導犬や介助犬も訓練して育てる。保護犬の社会的地位を高めて殺処分を防ぐ目的もある。介護福祉事業は、年齢を問わず快適に過ごせる施設とサービスを提供する。介護が必要な動物は一般のペットホテルなどでは預かってもらえず、安心して預けられる環境を整える。

利用者介助のスタッフ配置
一般社団法人旅の栞(阿波市)代表理事 榎本峰子さん(42)

 介助が必要な障がい者や高齢者が宿泊できる民宿「旅の途中」を阿波市に開業している。障がい者福祉施設や介護タクシー業などに携わるスタッフを配置して利用者をサポート。旅行をしたくても諦めていた人たちに、安心して宿泊や観光ができる機会を提供する。健常者も安価で利用でき、交流を楽しめる。介助が受けられる宿は全国でも珍しく、ネットワークを広げて日本各地から集客を目指す。

若者を集めてにぎわい創出
NPO法人チャレンジサポーターズ(徳島市)理事長 里見和彦さん(46)

 徳島市中心部のポッポ街商店街にあるビルで三つの店舗を設け、若者が集い、つながる場所をつくる。1階は学生が自由に使えるフリースペースとシェアカフェ、5階は学生による書道教室やプログラミング教室などを行う「チャレンジ教室」、9階はコワーキングスペースを予定している。商店街ににぎわいを創出し、若者のまちづくりへの参画や、創業意識の醸成につなげる。

プランII部門グランプリ 株式会社グリラス
コオロギが世界を救う!
持続可能な循環型タンパク質生産システム

渡邉崇人助教(左)と岡部慎司代表取締役社長(右)

 グリラスは、食用コオロギに関わるビジネスを手掛ける徳島大発のベンチャー企業。徳島大大学院社会産業理工学研究部の渡邉崇人助教(35)=取締役会長と同研究部の三戸太郎准教授(48)=取締役、タンパク質の構造分析を手掛ける企業で商品開発をしている岡部慎司代表取締役社長(44)が、昨年5月に立ち上げた。

 キャッチコピーは「コオロギが世界を救う!」。世界の経済発展と人口増などに伴い10年以内に発生するとみられる「タンパク質危機」を、昆虫食の切り口から解決しようと挑戦している。渡邉さんは「徳島県から世界の食糧問題を解決したい」と意気込む。

 開発した商品は、乾燥コオロギと粉末にしたグリラスパウダー。昆虫食の市場規模は急成長しており、10年後には8千億円程度を見込む。自動飼育システムの開発や食品機能性の研究などを進めて事業拡大を図る。

 最終審査では、グリラスパウダーを使ったせんべいを審査員に配り「おいしい」と好評だった。岡部さんは「食べると偏見がなくなって人に広めたくなる。そうやって仲間を一人ずつ増やしていきたい」。今春には、パウダーを活用した食品が生活雑貨店「無印良品」から発売される予定で、なじみの薄かった昆虫食の浸透に期待している。

事業内容紹介 徳島大で長年培ってきたフタホシコオロギの飼育技術やゲノム編集技術を活用して、コオロギの大量自動生産と加工品の開発・販売などに取り組む。フタホシコオロギは飼育が容易で成長が早く、味も良いため食用に適している。食品残さを餌に利用すれば環境に優しく、持続可能な循環型の生産システムができる。コオロギの養殖を牛や豚、鶏に次ぐ産業として普及させ、人口増加に伴う地球規模の食糧危機を救う手だてとして、徳島から世界へ発信する。

高性能薬剤と生成機を開発
シンニチエンジニアリング株式会社(板野町)代表取締役社長 佐藤功二さん(45)

 除菌・消臭能力の高い薬剤「レーアライフ60」と専用の生成機を開発し、独自の消臭システムを確立した。機械に薬剤と水を入れると、コンピューターが適切な生成量と濃度を調整。できた液体を、施設のごみ投入口付近やごみをためておくピットにノズルで噴霧する。県内での実証実験の結果、臭いやコストなどが大幅に削減された。化学工業メーカーと協力し、全国各地のごみ処理施設への普及を目指す。

将来の自立へ機能訓練実施
合同会社ハビリテ(徳島市)代表社員 太田恵理子さん(33)

 0~2歳に特化した児童発達支援事業所を設立する。発達の遅れや障がいのある子どもに日常生活の自立支援や機能訓練を行う。現在0~6歳を受け入れる施設を設けているが、対象年齢を0~2歳と3~5歳に分けることで、一人一人の成長に応じたより適切な支援に努める。年齢が低い時からの療育導入を推進し、子どもの将来的な自立を促す。

サポーター講評 村口和孝氏 投資会社代表取締役CEO
四つのステップ紹介

日本テクノロジーベンチャーパートナーズの村口和孝代表取締役CEO

 サポーターを代表して投資会社・日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(東京)の村口和孝代表取締役CEOが表彰式で、講評を述べた。

 最終審査に残らなかった応募内容も含め、素晴らしく心打たれるものが多かった。これから会社を立ち上げるのは大変だが、大きな四つのステップを紹介したい。

 一つ目は、未来の顧客のニーズを捉えているかどうか。10年後、20年後に何の時代が来るのかを感じ取ることが出発点となる。

 次に「こんな商品があれば顧客のニーズが満たされる」と気付くこと。試行錯誤して商品を生み出し、少数でいいからファンをつくる。

 三つ目は商品を市場に投入する。名のない会社が売るのだから、販売促進などさまざまな手だてが必要だ。

 販売数の見通しが立つと、最後の供給体制を構築する段階に入る。過不足なく供給することがポイントになる。

 最終審査会進出者のプランを見ると、この四つのステップでよく考えられている。どれがグランプリを取ってもいいレベルだった。

 人類の問題を解決するような起業は、考えたことを発表したり表現したりして、それにさまざまな人が反応する、「がやがや」した場所からしか出てこない。この創生アワードが、世界が良くなるものを徳島から生み出す、一つのきっかけになればと期待している。

サポーターから個人賞 90人参加し交流会

佐藤社長(手前右)から個人賞を受け取った佐野さん

 最終審査会が終了した後には、交流会が開かれた。発表者や審査員、招待された30代以下の若い応募者ら約90人が参加し、意見を交わした。

 映像製作会社・プラットイーズ(東京)の隅田徹会長による乾杯のあいさつで幕を開け、飲食しながら懇談。それぞれ事業プランについて説明したり、助言したりしていた。

 応募者の中から、15人のサポーターがそれぞれ特に応援したい人に贈る「個人賞」の発表もあった。副賞は、サポーターが決めた”特典“で、阿南高専5年野田篤志さんは、人工知能(AI)による会話分析サービスを提供しているコグニティ(東京)の河野理愛代表取締役からインターンシップの権利が贈られた。

 最終審査に進めなかった中からも選ばれた。絵や図で会議を記録する独自の「グラフィックレコーディング」を手掛ける佐野春香さん(33)=徳島市=は、システム開発などに取り組むハノイ・アドバンスド・ラボ(東京)の佐藤道明代表取締役社長から「支援の機会」が提供され、「得意な絵で人の役に立てるよう頑張りたい」と笑顔を浮かべた。

昨年度の最終審査進出者 1年間の活動振り返る

現状を報告した昨年度の最終審査進出者

 最終審査会では、昨年度の最終審査進出者による現状報告があった。5組が登壇し、1年間の活動を振り返った。

 三好市祖谷地区に交流宿を開設する事業を発表した「AWA―RE」取締役の井上琢斗さん(29)は、昨年12月のオープンを紹介。地域の人と連携しながら、旅行客向けの観光プランや学生向けの研修プログラムの提供を始めていると説明した。

 食育をテーマにした料理教室の事業を披露した「親子で楽しく学べるcotocoto」代表の元木美咲さん(34)は今春、徳島市内に教室を開くことを発表。

 経験を踏まえて起業を考える人へのメッセージもあった。子育てと仕事の両立を促すコンサルティング業でグランプリを受賞した「Pêche」代表取締役の吉積諒さん(37)は、「コンテストは、事業の妥当性を知るのに最適だと思う。用紙にまとめたり発表したりすると、考えが整理できた。課題を相談すれば、サポーターや関係者が手厚く応えてくれるのでぜひ挑戦して」と呼び掛けた。

 井上さんは「やる気になった時に行動に移すのが大事。まずは応募し、誰かの意見を聞く機会を持ってほしい」と強調した。

主催:とくしま創生アワード実行委員会(徳島県、徳島新聞社、徳島県信用保証協会、徳島経済研究所、徳島大学、徳島文理大学、四国大学)
協賛金融機関:阿波銀行、徳島大正銀行、JAバンク徳島、徳島合同証券