いかにもっともな言葉であったとしても、耐えがたい苦しみにある人の耳には届くまい。ただし、それを発したのがホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を生き延びた人だと知ればどうだろう。

 「どんな状況でも、人生には意味がある」。強制収容所から奇跡的に生還した精神科医ヴィクトール・フランクルの名著『夜と霧』は今も心を打つ。第2次大戦中、ナチス・ドイツがポーランドに設けたアウシュビッツ強制収容所が解放され、27日、75年を迎えた。

 フランクルは、ここで命の選別に遭っている。将校の人さし指が気まぐれに右へ動いていれば、ガス室に送られ、火葬場の煙となっていた。彼の母と兄を含め、アウシュビッツでは110万人以上が殺された。9割がユダヤ人だという。

 現地であった追悼式には、生存者約200人が参加した。こう語る人がいたそうである。「人間は外見も考えも違う。その違いを尊重することが重要だ。(他者への)憎しみを絶とう」。

 極限状況を耐え抜いた人の言葉だけに重い。騒乱の続く中東で、イスラエルは今や強者の側にあるけれど、これは民族を超えたメッセージだろう。

 フランクルは強制収容所で、少数とはいえ<こちらでは優しい言葉、あちらではパンの最後の一片を与える>人たちの姿を目にしている。人の本性は、善なるものと信じたい。