中国湖北省武漢市を中心に広がる新型コロナウイルス肺炎で、世界保健機関(WHO)が緊急事態宣言を出した。法的な強制力はないが、感染拡大防止に向け、国際的な協力態勢を強める狙いがある。

 緊急事態宣言は、2002年に中国広東省から始まった重症急性呼吸器症候群(SARS)での対応遅れを受け、05年に新設された制度だ。

 新型ウイルスは、SARSのコロナウイルスをしのぐ感染力を示している。今夏の五輪開催を危ぶむ声さえ出始めているが、臆測に基づいた見通しを語る段階ではない。

 今できる防止策を、冷静かつ着実に進める。水際対策を徹底するとともに、国内での感染拡大を封じ込める。わが国が培った最高水準の保健体制を機能させ、その力を示す時である。

 史上初の「緊急宣言」は、メキシコに始まった09年の新型インフルエンザの世界的流行(パンデミック)だ。北米から帰国した高校生らに感染が確認された。

 感染者は強制入院となり、都市を中心に厳戒ムードが広がった。結果的に、日本での致死率は低かった。受診のしやすさや医療水準の高さによって、早期発見・治療の効果が表れたと指摘されている。

 「新型」に効力がある予防ワクチンや治療薬は、今のところ存在しない。しかし、毒性はSARSウイルスを下回るとの見方が有力だ。過剰なおびえは、受診しやすい環境を阻害するなど、逆効果となりかねない。

 現状では、新型肺炎による死亡者の平均年齢は高く、持病を抱える人が多いという。抵抗力の弱い人は合併症を引き起こし、重症化しやすい。病院や施設の入所者、お年寄りや乳幼児に対し、十分配慮する必要がある。

 SARSの場合、重症者が感染源とされるが、今回は無症状の人にも陽性反応が出た。重症者との接触がない感染例が多いという。

 自分が全く気づかないうちに多くの人と接触し、感染を広げる恐れがあるということだ。重症者の封じ込めが効力を示したSARSとの相違点である。軽症者が起点となれば、感染ルートの把握は極めて難しくなる。

 政府は新型肺炎を感染症法の「指定感染症」とすることを閣議決定している。周知期間を経て7日施行としたが、WHOの緊急宣言を受け1日に前倒しした。強制的な入院や就業制限が可能となる。

 無症・軽症者による感染を想定すれば、「隔離」の効力は未知数だ。武漢関係者との接触が分かれば、肺炎の症状がなくても検査対象とすべきである。

 何より国民に対する丁寧な説明を心掛けてほしい。グローバル化に伴い、感染症の流行はこれからも起きるだろう。誤解や無理解によって外国人の人権が侵害されたり、地域社会がパニックに陥ったりするような事態は避けなくてはならない。