真実が靴のひもを結ばぬうちに、虚偽のニュースは世界を一周してしまう―。米国の作家マーク・トウェインの残した、数ある警句のうちの一つだそうだ。

 彼自身、新聞で自分の死亡記事を読む憂き目にあっている。すぐさま、気の利いた投書をした。「僕の死の報には誇張があるようにおもわれます」。本当の命日は1910年4月21日。作家の半藤一利さんが書いている。

 うそがまかり通るのは何も近年の現象ではない。とりわけ戦時は、ここぞとばかりに乱れ飛ぶ。大戦中の大本営発表しかり、湾岸戦争での油まみれの水鳥しかり。戦争遂行の重要な道具ともなっている。

 そんな厄介なうその、新手の製造法が浸透しつつあるらしい。人工知能(AI)技術を使い、極めて精巧に作られた偽動画「ディープフェイク」である。必要なツールの入手が容易になり、猛烈に増えているという。

 女優やミュージシャンが偽ポルノをまかれる被害に遭っている。政敵をやり込める手段としても使われており、あすスタートする米大統領選でも問題になる可能性がある。

 考えてみれば、「根拠があるのか」と問われ、「疑いない」と答えられるものが、この世界にどれほどあるだろう。冒頭の文だって出典を明示していない。当欄の作り話かもしれませんよ。それにしては気が利いている? ですよね。