米大統領の一般教書演説は向こう1年間の内政・外交方針を表明するものだ。ところがトランプ大統領の演説は、好調な経済を主にした政権運営の自賛と野党民主党への非難に終始した。「支持層向けの選挙演説」と指摘されても仕方があるまい。

 大統領選が11月に迫り、トランプ氏にとっては過去3年間の成果をアピールする絶好の場だ。実績誇示に時間を割くのは理解できるとしても、度が過ぎていよう。

 演説の大半が既に実施した政策の紹介に置かれ、施政方針に関する内容は乏しかった。加えて、党派間の亀裂の深刻さも浮き彫りになった。超大国の混乱ぶりを目の当たりにし、国際社会の懸念も増大するばかりだ。

 「700万人の新たな雇用をつくり、失業率は半世紀ぶりの低水準になった」。演説でトランプ氏は、労働者層に好景気が起きていると訴え、米国の復活を強調した。

 オバマ前政権下での移民政策や国民皆保険を主張する民主党を攻撃。格差の拡大や財政赤字など負の側面は語らず、中国との貿易協議の意義なども交え、経済施策の成果を次々と挙げた。

 外交・安全保障も同様だ。中東でのテロ対策の実績や駐留米軍撤収への取り組みなどを強調する一方、同盟国に「公平負担」を迫る考えも示した。だが、中東情勢は決して思惑通りに進んでいない。

 イラン核合意からの離脱後、米軍は関与拡大を余儀なくされ、撤収に向けたアフガニスタン和平協議も進展がみられない。同盟国との関係にも暗雲が漂っている。

 演説ではこうした課題には一切触れなかった。何よりも残念なのは、北朝鮮問題に言及しなかったことだ。

 昨年は金正恩朝鮮労働党委員長と再会談を実施すると発表した。今回は非核化協議が停滞しているからだろうが、打開に向けた意欲があるのか首をかしげざるを得ない。

 議場の光景も異様だった。演説中、共和党議員らがしばしば立ち上がって拍手を送る一方、民主党議員らはほとんど着席したままだった。

 演説前には、民主党のペロシ下院議長が握手しようと差し出した手をトランプ氏が無視。ペロシ氏は演説後、トランプ氏の後方で演説原稿を破り捨てた。対立の根深さを物語っていよう。

 共和党が多数派の上院は、ウクライナ疑惑を巡るトランプ氏の弾劾裁判で無罪評決を出した。大統領選などに向け、疑惑解明より党利党略を優先させた形だ。

 トランプ氏は即座に、弾劾訴追を主導したペロシ氏らを中傷し、民主党への攻撃をエスカレートさせた。ここでも反省の弁や国民への謝罪は聞かれなかった。

 下院は民主党が多数派を占めており、予算措置を伴う施策実行は難しくなっている。トランプ氏はこの現実を直視すべきだ。対立をあおるだけでは国益につながらない。