出雲糸操りの人形(出雲糸操り人形保存会提供)

 戦後長く途絶えていた島根県出雲市大社町の人形芝居「糸操(いとあやつ)り」を復活させようと、出雲糸操り人形保存会が「人形洋(にんぎょうよう)」こと人形師・甘利洋一郎さん(72)=徳島市勝占町=に、人形の修理を依頼する計画を立てている。人形を所有する出雲市も「できる範囲で協力したい」としており、阿波人形浄瑠璃で培われた名人の技が、出雲の伝統芸能復活に大きな力を果たしそうだ。

 糸操りは昨年、地元ライオンズクラブの40周年事業で上演された「益田糸操り人形」(同県益田市)の公演をきっかけに復活の機運が高まり、保存会が結成された。人形約40体が保存されていたが、肝心の糸が切れていたり、触ると衣装が破れたりと、修理なしには舞台で使える状態ではなかった。

 5月上旬、保存会の稲根克也事務局長(57)らが人形3体を携えて来県。阿波十郎兵衛屋敷で紹介された甘利さんを訪ね、修理が可能かどうかを打診した。甘利さんは「人形は舞台で動かし、使ってこそのもの。ぜひ修理を引き受けたい」と快く応じた。保存会は上演演目を決めたり、保存されている人形を分類・整理したりしてから、修理計画などを立てるという。

 人形師初代天狗久や文楽人形師の大江巳之助さんら、名だたる名人を輩出した徳島の人形制作・修復技術は、全国的に有名。甘利さん自身、岐阜や福岡など全国各地の人形座から修理の依頼が来る。使っているうちに傷んで修復を頼まれる例は多いが、今回のように途絶えていた伝統を復活させるための依頼は珍しいという。

 甘利さんは、「人形恒(にんぎょうつね)」の名で知られた故田村恒夫さん=元阿波木偶制作保存会長、2009年死去=の一番弟子。15年度の「現代の名工」にも選ばれ、現在、同会師範と阿波木偶作家協会理事を務める。

 出雲糸操り人形保存会の稲根事務局長は「糸操りを復活させることができれば、徳島でも上演したい」と話し、人形芝居が結ぶ縁の広がりに期待を寄せる。甘利さんも「出雲の人たちにとって大事な郷土芸能の復活を手助けできたら」と意気込んでいる。

 ◆出雲の糸操り

 人形を十数本の糸で操り、三味線と義太夫語りが入る「三業一体」の人形芝居。17世紀半ばごろには、出雲大社の門前で上演されていたとされる。第2次世界大戦で興業が中止され、やがて行われなくなった。主な演目は「三番叟(さんばそう)」「傾城阿波の鳴門」「絵本太功記」など。