子宮頸がんは別名「マザーキラー」と呼ばれ、妊娠・出産する年代の20代、30代でかかる人が近年増えている。全国の罹患者は年間約1万人で、約2800人が命を失う。予防に有効なワクチンは、接種後に健康被害を訴える人が相次ぎ、国は2013年から「定期接種だが、積極的には勧奨しない」という曖昧な態度を続ける。接種率は激減し、世界保健機関(WHO)は「防げるがんのリスクに女性をさらしている」と日本政府に対して警告している。国が明確な方針を示さない中、県内市町村の情報提供の仕方にもばらつきが出ている。

国、「再開」に踏み込めず

 

 「ワクチン接種後に歩けなくなった女の子の映像を報道で見た。そのインパクトが強く、怖くなった。本人も打ちたがらず、接種はさせていない」

 17歳と19歳の2人の娘を持つ徳島市の女性会社員(50)はそう話す。「次女のときには市から通知も来ない。尋ねられるまで子宮頸がんワクチンのことを忘れていた」と続けた。

 子宮頸がんの原因は、性交渉によるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染。日本では13年4月から、HPVへの感染を防ぐワクチンが予防接種法に基づく定期接種になった。対象は小学校6年生から高校1年生の女子で、6カ月かけて3回、接種する。徳島県は、それに先立つ10年10月から公費助成制度を始め、全市町村で無料接種が可能になっていた。

 しかし、接種後に不随意運動や全身の痛みといった健康被害の訴えが相次ぎ、13年6月に厚労省は積極的勧奨を中止した。16年には、被害者が国や製薬会社に損害賠償を求める訴訟が起きている。

 勧奨中止を受けて、接種率は急落した。徳島市では3回接種を終えた中学1年生の割合は、12年度は69%に上ったが、13年度は5%、14年度は1%に。18年度は徳島県内で少なくとも1回接種した13歳は15人で、対象者の0・5%でしかない。

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 副反応について厚労省の調査班は16年、「接種歴のない人にも、接種後に報告されている症状と同様の症状を示す人が一定数、存在する」という結果を出した。ただ、同省はワクチンとの因果関係についての結論が出せないとして勧奨を再開していない。

 一方で、18年1月には、ウェブサイトにリーフレットを掲載し、情報提供を始めた。「ワクチンの『意義・効果』と『接種後に起こる症状』について確認し、検討してください」とし、効果と副反応について示している。接種する、しないを個人の判断に委ねているのが実情だ。

 勧奨中止から時間がたち、ワクチンの認知度も低下している。

 厚労省が18年10月、12歳~69歳の男女2400人を対象に実施した調査では、ワクチンの意義・効果について34%が「知らない、聞いたこともない」と回答している。

 医療関係者の間では危機感が広がり、日本産婦人科学会は再三にわたって勧奨再開を求めている。

自治体周知 割れる対応

 

 ワクチンの有効性を認めながら、積極的には勧めない厚労省の態度は、予防接種の実施主体となる市町村の対応にも影響を与えている。

 徳島新聞が県内24市町村に、対象者家庭への個別連絡の有無を聞いたところ、阿波市と那賀、北島、板野、上板の4町が対象年齢になった女子の家庭に、厚労省のリーフレットや独自に作成した案内文書を送っていた。残る19市町村は通知をしていない。

 阿南市は家庭への通知はしていないが、市教委と連携し、中学校での3者面談の際、HPVワクチンを含む中学生対象の定期予防接種について説明した文書を毎年渡している。

 家庭に通知をしている自治体は「定期接種だから」、していない自治体は「勧奨が再開されていないから」とそれぞれ理由を説明し、対応が割れている。

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 そんな中、積極的な情報提供に乗り出したのが岡山県だ。本年度、同県産婦人科医会の監修を受け、子宮頸がんワクチンについての独自のリーフレットを8万5千部作成した。中学校や高校、市町村の窓口、医療機関などを通じて配布した。ウェブサイトでも公開している。

 厚労省(左)と岡山県がそれぞれ作成したリーフレットの1ページ目。各機関のウェブサイトからダウンロードできる

 岡山県健康推進課の担当者は「推奨しているわけではなく正しい情報を知ってもらうため」と話す。副反応についても記しているが、子宮頸がんの危険性や予防法などが分かりやすく紹介されている。高校生の子どもを持つ保護者からは「予防接種を知らなかった。まだ間に合いますか」といった声が寄せられているという。3年間で約360万円の予算を組み、子宮頸がん予防の啓発動画の作成なども行っている。

 徳島県はどうなのか。県健康づくり課の担当者は「国の動向を見ながら対応している」と回答。現在、ウェブサイトに接種に関する相談窓口の案内をメインにした内容を掲載するにとどまる。

 勧奨中止から7年近く。「防げるがん」と言われる子宮頸がんから、若年世代をどう守っていくのか。関係機関の議論が望まれる。

婦人科腫瘍専門医・徳島市民病院 古本博孝副院長に聞く

「豪では28年撲滅を視野」

「海外では子宮頸がんの撲滅も視野に入った国もある」と話す古本副院長=徳島市民病院

 子宮頸がんワクチンの意義や副反応について、徳島市民病院の古本博孝副院長(婦人科腫瘍専門医)に聞いた。

 ―子宮頸がんワクチンとは。

 子宮頸がんの原因となるHPVは8割ほどの人は一生のうちにどこかで感染する、ありふれたウイルスで、型が100以上あります。日本で認可されているワクチンは、子宮頸がんから検出される型のうち約6割を占める16、18型への感染を予防するものです。

 海外では既に、七つの型が予防できるワクチンが普及し始めています。オーストラリアではワクチンが国の接種プログラムに入って以降、前がん状態である子宮頸部上皮内腫瘍の発生が減少。同国の子宮頸がんは、2028年には撲滅レベルになると予測されています。
 
 ―検診だけでは子宮頸がんは防げないのでしょうか。

 ワクチンはHPVウィルスへの感染を予防します。検診は前がん病変を発見するのが目的で、役割が違います。日本では過去20年以上、検診率を上げようとさまざまな取り組みがされていますが、受診率は4割余りにしかなっていません。「ワクチンではなく、検診をすればいい」という声がありますが、これは机上の空論でしょう。
 
 ―ワクチンについて、過去のメディアの報道をどう見ますか。

 副反応とされる症状を繰り返し報道する一方で、子宮頸がんで毎年死者が多数いるという事実を正確に伝えず、偏っていたと感じます。

 副反応として報道された慢性的な痛みや運動障害などは、ワクチン接種と無関係に発症することがこれまでの研究で明らかになっています。ただ、彼女たちが苦しんでいるというのは事実。真摯に対応していかねばなりません。

 すべてのワクチンには副反応があります。メリットとデメリットを考え、冷静に判断する必要があります。
 
 ―図書館に行けば、いずれも医師が書いた「打つべき」「打ってはいけない」という両論の本が並んでいます。情報が混在していて、何を信じればいいのか分からないという声があります。

 WHOは接種勧奨を再開するよう何度もアナウンスしています。ワクチンを導入することで、撲滅も視野に入っている国もあります。その事実を見ることが大切です。

◆編集後記

 厚労省が作成したリーフレットは分かりやすいけれど、1ページ目に「HPVワクチンは、積極的におすすめすることを一時的にやめています」と大きく記載がある。熟読せず、一目見ただけでは、接種しようと積極的な気持ちになるのは難しそうだ。

 ワクチンを巡る議論でよく言われるのが、「接種しないでいつかがんになるリスク」と「接種して今、副反応で苦しむかもしれないリスク」を比べると、前者を過小評価しがちだということ。

 本来は、こうした印象論ではなく、科学的な根拠に基づいて接種するかしないかを判断しなければならないが、個人に委ねられては荷が重すぎる。国は何らかの指針を示すべきだろう。少なくとも、ワクチンの存在を知らず、接種の検討すらしなかったという人をなくす努力は必要だ。

 対象者の方へ。接種は3回で、完了には6カ月かかる。希望するなら、遅くとも高校1年の9月には1回目の接種が必要だ。対象年齢を過ぎると、自己負担額が計5万円程度となる。岡山県や厚労省のリーフレットを熟読し、検討してほしい。