父親として息子の記憶の中にどんな像を刻んでいるのだろう。神奈川県の男子中学生の作文に、ふと、そんなことを考えさせられた。

 「あなたが今、心にとどめておきたいことや、つないでおきたいこと」をテーマにした公募企画「心のホッチキス・ストーリー」の大賞となった作品である。主催する事務機器メーカー「マックス」によると、本年度寄せられた1万3889点から選ばれた。15歳のみずみずしい文章で、がんで闘病中だった父との記憶をつづっている。

 持って3カ月と医師から告げられ、互いの気持ちもささくれだっていたのかもしれない。ささいなことで衝突し、大げんかとなったのだという。思わず口にしてしまった。「うっせ、死ね」。自分が許せず家を飛び出した。

 いつしか玄関のドアの前に立っていた。父の姿に、こらえていた涙があふれて止まらない。「ごめんな。いつも迷惑かけているのに。許してくれ」。そう言った父は父だった。<僕の知っている、頼もしく、広い背中を持ち、僕の全てを分かってくれる父だった>。

 苦いけれど、最高の思い出だ、と筆者は記している。むき出しの心と心がぶつかり合い、分かり合えた瞬間だったのだろう。

 家族の、ささやかではあるが大切な物語。うちにもあったっけと思いを巡らせれば、脳裏に浮かぶ映像が一つ、二つ。