村木厚子さん

 厚生労働省元事務次官の村木厚子さんは、徳島市出身の作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんらと共に「若草プロジェクト」を立ち上げ、虐待や性被害に苦しむ若い女性に寄り添っている。彼女たちに何が起き、私たちは何ができるのか。村木さんに聞いた。

 ―なぜ、若い女性の問題に思いを寄せるようになったのか。

 拘置所にいた時、ラジオからニュースが流れるんですけど、児童虐待のことを聞くのがすごく嫌だったんです。「大人の責任だよなあ」と思って。そんな中で、刑務作業をしているかわいい女の子たちを見掛けました。検事さんに、なぜここにいるのかを聞いたら「薬物が一番多くて、その次は売春系(の犯罪)」って言うんです。社会復帰後に勉強してみると、虐待の被害者だったり性暴力に遭っていたり。耐えがたいことがある中で薬物に依存し、1人で生きていくために売春しているという実態があると知りました。

 児童虐待の対策は、圧倒的に小さい子に力が注がれているんですね。命に関わるから仕方ないのですが。しかしその一方で、発見できていない、手が届いていない子がたくさんいます。そんな女の子たちの生きていく手段が、会員制交流サイト(SNS)で見知らぬ男性に「きょう泊めてください」と頼ること。だから性被害に遭ったり、性的に商品化されたりするリスクが付きまとう。追い込まれ、1人で戦っている彼女たちの手助けをしたいと思いました。

 ―そもそもなぜ、若い女性たちは困難を強いられる状況に陥り、抜け出せなくなるのだろうか。

 孤立しやすくなっているのが一つの理由です。親族や地域とのつながりが薄れ、育児の責任が親だけにのしかかっています。その結果虐待が起きれば、家庭にいられない。その上、学校にもなじめないとなったら居場所がない。そうなると、女性の場合、特別のリスクを抱えてしまいます。昔は、お金に余裕のある親戚が助けてくれるなどしました。一人一人につながっている「糸」のようなものが多かったと思うんですよ。でも今、その糸がとっても細く、少なくなっています。

 ―プロジェクトは少女たちに支援の「糸」をつなげようという取り組みです。手応えは。

 著名な方々が「呼び掛け人」に入り、少女たちが置かれた状況を広く知ってもらったり、企業に協力してもらったりできるのが強みかなと思っています。例えば企業は、アパレルなら衣服、製薬会社なら医薬品といった形で、本業に近いところで応援してくれています。自立支援には多様な支援が必要なので、とても有り難い。企業が応援してくれているという事実は、彼女たちのエンパワメントにもつながっています。他の団体ともつながりつつあり、今後は支援のプラットフォームのような役割を果たせたらと思います。

 ―少女たちと関わり、どんなことを感じるのか。

 みんな自分を「悪い子」だと思っていて、社会もそんな風に扱います。だから助けを求められないんです。暗闇に潜んでいる小動物みたいだなと思っているから。何げなく近くを通るだけでは、見えないし、気付かない。大人に対する警戒心が強くて、ぱっと懐中電灯を照らすと逃げてしまいます。

 でも性的搾取をもくろむ悪い大人って、暗闇に隠れている弱い子たちを見つけるのが本当に上手。風俗のスカウトとか。どっちが先に声を掛けるかの戦いです。困っている子が必ずいると思って、こちらがしっかりと暗闇に目を凝らさないといけません。

 ―困難な状況に追いやられた少女たちのために、私たちは何ができるのだろうか。

 「悪い子」と思われがちな少女たちの背景を少し勉強し、理解してほしいです。そして「本当に彼女たちのせいなんだろうか?」と考えてみてください。世間の目が冷たいと、立ち直る時に本当につらい。気に掛けて、できれば支援機関などの正しい情報を伝えてください。彼女たちは、凍るように冷たい水の中を泳いでいると思います。その水の温度を少しでも上げられるようにサポートし、泳ぎやすくしてあげてほしいです。

 ―今、苦しんでいる若い女性たちにどのようなことを伝えたいか。

 「手助けをしたいと思っている大人はちゃんといます」と伝えたいです。悩んでいることがあったら、ぜひ相談してほしい。「説教されるんじゃないか」「叱られるんじゃないか」と心配する子が多いけれど、大丈夫。私たちは、自分なりの方法で一生懸命に戦っている女性たちに寄り添い、その声を聴いていきたいと思っています。

 

 むらき・あつこ 1955年、高知県生まれ。高知大卒業後、78年に労働省(現厚生労働省)入省。女性政策や障害者政策を担当した。2009年の郵便不正事件で逮捕、起訴されたものの10年9月に無罪が確定。13年に厚労省事務次官に就き15年に退職。現在は津田塾大客員教授。