抱くようにカメラを持って、じっと待つ。その瞬間、さっと左手で構える。狙いを捉える様の鮮やかなこと。白く長い髪。練達の武芸者の、一瞬の立ち合いを見ているようでもあった。徳島市の写真家・吉成正一さんが亡くなった。

 93年の生涯をかけて、阿波踊りや人形浄瑠璃、各地で活躍する徳島県人の姿を追った。昭和天皇も撮影した本県を代表するカメラマンである。家業を継いだのは戦後間もなく。原点には戦争があった。

 大戦末期、米軍機の空襲で右手と左目を失う。独特の構えはこのためだ。カメラを手にしてすぐのころ、傷痍軍人に何ができるか、と悪評も流された。それでも、誰かの、何かのせいにはしない。

 この人にとって、ハンディは発奮材料の一つにすぎなかった、とまで言えば、黄泉への道中、苦笑いするだろうか。わが道を真っすぐ進み、数々のコンクールで賞を得た。長年、台湾で技術指導も。2014年、県文化賞。

 「人の心を写すのが写真です」。そう聞いた時、なるほどな、と合点がいった。苦労をしたからこそ分かる、人の表情がある。武芸者の身のこなしは、それが立ち現れてくる一瞬を逃さないよう、培われたのではないか。

 目標としていた100年にはわずかに足りないけれど、「二遍ない人生」を悔いなく生きた。そう言い切っていい人なのだろう。