配偶者やパートナーの呼び方はさまざま。自分がどう呼ばれているか、聞いてみたい(写真と本文は無関係です)

 「主人」という言葉に注目が集まっています。かつては使用人らが家の代表者をこう呼んだのですが、現代では一般家庭で妻が夫を呼ぶ際に使われています。最近、作家の川上未映子さんによる「『主人』という言葉が心底嫌い」と題したコラムが話題に。インターネット上では「差別用語」「ただの記号」などと賛否が飛び交っています。「主人」という言葉について、考えてみました。

「夫婦対等表せない」■「ただの記号」

 徳島市の女性(34)=農業=は結婚当初、夫婦対等な関係を日本語で表すのが難しいと思い、「パートナー」という言葉を使っていた。しかし、不思議そうな顔をされたり、「パートナーって何?」と質問されたりして、説明が面倒に。「今は『夫』と言っている」と言う。「主人」とは呼ばない。

 「主人」は、元々、「家の主」や「他人を従属させている人」を意味し、使用人も擁する大家族の代表である男性を指した。家制度の崩壊で結婚した男性なら誰でも「家の主」となれるようになった戦後、「主人」が広まったと推察されている。配偶者の呼称としては昭和初期までは「主人」より、「夫」が多用されていたとする調査もある。

 「主人」を巡る論争は、昔からある。徳島市八万町の大久保初子さん(76)が「絶対『主人』とは呼ばないようにしよう」と友達と誓い合ったのは、大学生だった18歳のとき。半世紀以上が過ぎたが、「状況は何も変わっていない」。

 同世代の多くは「主人」を使う。しかし、「『パートナー』を日本語にした『連れ合い』がしっくりくる」と提案する。「育児や家事に専念する女性もいるだろうが、家庭運営のための役割分担。でも、女性側が『養われている』と思わされている。だから『主人』と呼ぶのでは」

 一方、「主人」と呼ぶ女性にも言い分がある。徳島市の女性(53)=自営業=は「家の主、中心であるという意味を込めている。私の方が収入が多い時期も『主人』と呼んでいました」。小松島市の主婦(37)は「友達と話すときは『旦那』。改まった場だと『主人』。でも家の主などの意味はなく、ただの記号のようなもの」。「主人」と呼ぶ女性の間でも、そこに込められる意味はさまざまのようだ。

 ちなみに「旦那」の語源は、サンスクリット語で「施し」を意味する「ダーナ」。江戸時代には使用人らが主を敬ってこう呼んだ。昔は「主人」同様、目上の人らに対して使われたが、現代ではあまり敬意を感じられない呼称となっている。

 ここまで、婚姻関係にある異性愛者を前提とした。しかし、パートナーシップの形はさまざま。LGBT(性的少数者)の人もいれば事実婚を選ぶ人もいる。

 LGBTの支援活動をする葛西真記子・鳴門教育大教授は「性別や婚姻の有無に関係なく使える『パートナー』『相方』『連れ合い』を、メディアに出る人や教員らが率先して広めてほしい」。

 ジェンダー論も教える吉田文美・徳島大准教授(英語詩)は「『正しい呼び方』というのはない。しかし、呼称問題を考えることがパートナーシップを見つめ直すきっかけになるはず」と話した。

他人の配偶者の呼称 「夫さん」ドラマ登場で注目

 他人の配偶者をどう呼ぶかに悩む人も多い。「主人」に必ずしも賛同しない人も、敬意を込めようとしてつい、「ご主人」と言ってしまう。ただ言われた側の意識次第で、敬語にも、失礼な言葉にもなり得る。代わる言葉はないのだろうか。

 日本語ジェンダー学会理事の水本光美・北九州市立大名誉教授は長年、「夫さん」「妻さん」という呼び方を提唱してきた。「きょとんとする方もいるけれど、それをきっかけになぜこの言葉を使うか説明している」

 今年1月から放送されたTBSドラマ「カルテット」では「夫さん」という呼称が使われた。「『夫さん』でもいいんだ、と思った人も多いのでは。『主人』という言葉を疑問視する声も増えている。この呼称が広がればいい」

 そのほか、県内の女性からは「お連れ合い」や「配偶者さん」と呼んでいるとの声もあった。

英語圏でも husband・wifeに抵抗感

 英語圏では「husband(夫)」や「wife(妻)」という言葉に抵抗感を覚える人たちがいる。

 英語語源辞典(研究社)によると、「husband」は元々、「一家の主人」を指した。一方、「wife」には「妻」のほか、「女」という意味もあった。

 吉田文美・徳島大准教授は「男性が家の中心という意味では、『主人』と似ているのではないか」と言う。

 使用を避ける人の多くは、これらの呼称に付随する性別役割のイメージを理由としているようだ。対等の立場で結婚するのに、「『husband』や『wife』と呼ばれることで、異なる役割を担わされる感覚になる。それに抵抗があるのでは」と推測。「国が違っても同じようなことに悩んでいるのが興味深いですね」と話した。

編集室だより 

 夫について言及する際、名前のほか、「旦那さん」と呼んでいた記者。「主人」は使わないようにしていました。しかし、調べる中で「旦那」も主従や上下関係の中で使われていた言葉と知り、少々、複雑な心境です。

 吉田文美・徳島大准教授は「名前で呼ぶのが理想」と話していました。確かに、余分な意味が加わらず、一番すっきりする気がします。呼称問題、ぜひパートナーと話し合ってみてください。