宮城県南三陸町の防災庁舎のそばに設置された「みやぎジョネット」のトレーラー。震災で顕在化、深刻化したDVの相談を受け付けている

 「急増した、というわけではない。もともとあったものが震災をきっかけに顕在化、あるいは深刻化したという印象だ」。被災女性の支援や相談事業に取り組む女性団体の関係者たちは、被災地におけるドメスティックバイオレンス(DV)の傾向について決まってこう語る。

 被害が甚大だった沿岸部は水産業が盛んで、家族ぐるみで仕事に従事する家庭が多い。「嫁」は夫のサポート役に徹し、同居する義理の両親に従うという封建的な風習も根強く残る。宮城県南三陸町に拠点を置く女性団体みやぎジョネットの草野祐子代表は「南三陸のような沿岸部は男性優位の社会。女性たちはDV被害に遭いやすい傾向にあったが、震災で状況はさらに悪くなった」と指摘する。

 全国の女性団体でつくる東日本大震災女性支援ネットワーク(東京)が実施した「東日本大震災-災害・復興時における女性と子どもへの暴力に関する調査報告書」によると、報告された暴力事案82件のうち、DV被害は45件と半数以上を占める。複数回答で得た被害の内容は「言葉による暴力」が38件で最も多く、「行動監視や無視など精神的・心理的暴力」(30件)「身体的暴力」(23件)と続く。「同意のない性交の強要」も6件あった。

 具体的な被害内容は「震災の影響で仕事が減って酒びたりになり、一升瓶で殴られた」「以前から言葉の暴力はあったが、津波で家族を亡くしたことで余計怒鳴られるようになった」など。災害による男性のストレスの矛先が、立場の弱い女性へと向かった実態がうかがえる。狭い仮設住宅で絶えず顔を付き合わせるため、暴力がエスカレートしたなど、家屋の流出・倒壊による住環境の変化で危険が増大したケースも報告された。

 岩手県宮古市の女性団体あじさいの会の伊藤エミ子代表は「世帯ごとに支給される義援金や補償金を夫が独占し、経済的に困窮する女性が少なくなかった」と指摘する。その上で「DVや別居などさまざまな事例を想定し、世帯主名義でなく個人で受け取れるようにすべきだ」と提言している。

 夫婦間に問題を抱える妻は、震災によってより厳しい状況に立たされた。しかし、彼女たちの多くはただ困難の中で立ち止まっているわけではなかった。

 女性の就労支援に取り組む岩手大男女共同参画推進室の堀久美准教授は「夫の言いなりだった沿岸部の妻たちは震災をきっかけにこれまでの生き方を見直し、主体的に生きようとするようになった」と分析する。復興支援活動に積極的に参加したり経済的自立を目指して事業を始めたり、人生の目標に向けて努力する動きも活発になってきたという。

 未曽有の大災害をくぐり抜けて未来を切り開こうとする彼女たちから、学ぶべきことは多い。徳島でもいつ起こるとも知れない大災害に備え、DVのない社会づくりとともに、女性自身が自分の足でしっかりと立って生きていく力を付けることが大切だろう。

(2015年9月30日 徳島新聞掲載)=肩書きは当時