避難所運営ゲーム「HUG」に取り組む女性参加者ら。着替えや授乳などをしやすい間取りを考えた=徳島市のときわプラザ

 「女性更衣室はきちんと鍵の掛かる場所じゃないと」「赤ちゃんとお母さんには専用スペースを設けよう」。8月末に徳島市で開かれた防災講座。参加者は避難所運営を疑似体験できるゲーム「HUG(ハグ)」に取り組み、多様なニーズを抱えた人々が押し寄せる避難所の運営方法を学んだ。

 これまで徳島県内で防災訓練といえば、自宅や学校などから安全な場所へ逃げる避難訓練が中心で、その後の避難場所でいかに快適に過ごすかという視点は見過ごされがちだった。それは東日本大震災の被災地も例外でなく、避難所で生活した女性たちは大きな苦痛を味わった。

 授乳場所がなかったり、トイレがブルーシートで覆われただけで外からのぞける構造だったり。プライバシーや防犯、物資に対する女性の切実なニーズが反映されなかった教訓を生かし、被災地ではさまざまな対策が進められている。

 NPO法人参画プランニング・いわて(盛岡市)は今年1月、内閣府の補助金を得て「命とくらしを守る避難所運営ガイドライン」を策定した。男女別のトイレや更衣室、洗濯物干し場のほか、男性の視線を気にせずに下着や生理用品の受け渡しができる女性専用スペースの設置を明記。女性のプライバシーが保たれていないことで助長されるセクハラや性被害の防止を目指している。

 同団体の田端八重子理事は「かき消されがちだった女性の声を反映させるとともに、性的少数者に留意することも盛り込み、性別にまつわる苦痛が軽減されるよう配慮した」と話す。

 そうした空間をつくるためには、女性が運営に関わることが不可欠。ガイドラインでは「女性と男性両方の責任者を配置する」とし、女性の声を届ける同性のリーダーの必要性を訴えている。

 ただ、現状として、非常時に現場でリーダーとなり得る女性はまだまだ少ない。防災は男性の分野とする固定観念が背景にあるとみられ、女性団体みやぎジョネット(仙台市)の草野祐子代表は「女性自身も、地域防災の担い手という自覚を持って主体的に関わることが大切」と話した。

 被災地で防災分野の男女共同参画に向けた対策や意識改革が進みつつある一方、徳島県での動きはまだ鈍い。

 災害時に避難所運営の最前線に立つ市町村で、女性の視点を取り入れるなどした独自の運営マニュアルを策定しているのは全体の2割にとどまる。県は市町村の参考としてもらえるよう、女性への配慮を細かく記した「避難所運営マニュアル作成指針」を今年3月に作成したが、浸透はこれからだ。

 さらに、防災士の有資格者1128人のうち女性は206人で、全体の2割以下。女性の声を吸い上げるために不可欠とされるリーダーも少ない。こうした状況下で災害が起これば、東日本大震災と同じ事態になることは想像に難くない。

 社会的には男性との「平等」が約束されている女性も、ひとたび非常事態になれば弱者の立場に追いやられてしまう。しかし、考えてみてほしい。予想だにしない災害で苦しむのは、自分や母や妻、娘かもしれないのだ。

 南海トラフ巨大地震はやがて来る。その時、大切な人の苦痛を少しでも軽減できるのなら、男女格差が存在し続ける社会を変えるために一人一人が動くべきだろう。(おわり)

(2015年10月1日 徳島新聞掲載)=肩書きは当時