「上勝暮らしカル」を執筆する(右から)東さん、菅原さん、松本さん=上勝町のカフェ・ポールスター

ウェブマガジン「上勝暮らしカル(Kamikatsu Classical」

 山あいにある人口約1500人の小さな町、上勝町。過疎化が進む一方、ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)活動や葉っぱビジネス「彩」といった先進的な取り組みで知られ、世界中から視察者がやって来る。「ここでの暮らしのリアルを伝えよう」。そんな思いで、町に住む30代の3人が始めたウェブマガジンがある。「上勝暮らしカル」。町議選候補者へのインタビュー、受け継がれてきた手仕事のリポート、小規模自治体が抱える課題についての論考―。つづられたさまざまな文章からは、地域の未来を模索する書き手の姿が見えてくる。 

■廃れゆくローカルに危機感

 「伝統の文化や知見が廃れていくのが怖かった。また、外から来た人たちに、どういう暮らしをここでしているのか、発信しないと伝わらないと思って」。執筆者の一人で、町内で「ゼロ・ウェイスト」をコンセプトにしたカフェ・ポールスターを営む東輝実さん(31)は、ウェブマガジンを始めたきっかけをこう語る。

 スタートは2018年12月。カフェを共に営む夫の松本卓也さん(34)=徳島大人と地域共創センターコーディネーター=、東京出身で農家の手伝いをする「フリーター」の菅原由紀さん(31)の3人が交代しながら、週1回のペースで更新している。

■日記から硬派な話題まで

 記事のテーマは多種多様だ。菅原さんは創刊当初、自身の住宅や就職事情を書いている。築50年の2階建ての一軒家を家賃月1万円で借り、リノベーションをしたことや、農家の収穫などの手伝いをして生計を立てる日々をつづっている。そのほか、晩茶の作り方など、受け継がれてきた手仕事のリポートもあり、都市とは全く異なる日常があることがよく分かる。

 人口減や高齢化は進む。そんな中、町のゼロ・ウェイスト政策をどう展開していくのか。働き手をどう確保していくのか。課題は山積みだ。故に、硬派なコラムも多い。

 例えば、松本さんは昨年3月の記事で「自治」を考えている。大阪府出身の松本さん。町に来て、80歳を超える高齢者が講演会に参加し、自分がいないかもしれない町の未来について議論する光景は「衝撃的」だったと書く。今後、自治区分の再編は不可避かもしれないが、自治意識を失わない進め方が大切だと論じている。

■町議選候補にインタビュー

 「暮らしカル」のひとつの転機となった取り組みが、昨年12月の町議選に合わせて実施した立候補者インタビューだ。きっかけは、「どうやって選んだらいいのか」と移住者らから上がった声。「何もせずに文句を言うのではなく、自分たちでやろう」。立候補者に対面や電話で出馬理由のほか実現したいことを取材し、リストにして公開した。

 「それまでは自分たちの活動や考えを書くことが多かった。取材をして書いてみて、メディアとしての意識が強くなった」と東さんは言う。

■メディアとしての可能性

 創刊から1年余り。「寄稿したい」という声や企画広告の話が寄せられるなど、媒体としての存在感を増している。

 ウェブ記事を含むあらゆる表現は、賛同や共感だけでなく、批判の対象にもなる。「それでも、表現するって大事。この町で、考えている人がいることを示していけば、次の展開があるんじゃないかと思うんです」

 「メディア」とはそもそも「媒介」を意味する言葉だ。つまり、ふたつのものの間に立ち、仲を取り持つ役割を担う。「上勝暮らしカル」による発信が町と世界を結び、どんな新しい知やアクションが生まれるかは分からない。小さなローカルメディアがもつ可能性はどこまでも大きい。

ウエブマガジン「上勝暮らしカル」は http://rdnd-kamikatsu.com/webmaga/