「シンデレラ」をモチーフにした、女性起業家対象のビジネスコンテストに対し、賛否の意見が出ている。女性の応援が目的だが、コンテストのウェブサイトを見た人には必ずしもそう伝わっていない。何が原因でこのギャップが生まれるのか。女性起業家や経営者らの意見に耳を傾けると、多様なジェンダー観が入り交じった現状が見えてきた。皆さんにとってシンデレラは憧れの対象ですか? 

「シンデレラの舞踏会」という設定の受賞式の様子を紹介した徳島ニュービジネス協議会のウェブサイト

 一般社団法人徳島ニュービジネス協議会は昨年から、女性の起業家らを対象にしたビジネスコンテスト「21世紀型シンデレラストーリー」を実施している。昨年は13件、今年は7件の応募があった。

 1次の書類審査を通過すると、2次の最終審査でビジネスプランのプレゼンテーションを行う。審査に参加している支援機関の職員は「魔法使い」という位置付けで、「支援」という「魔法」をかける設定。最終審査を通過した受賞者は「シンデレラ」となり、県内の経営者らが出席した「舞踏会」と呼ばれる受賞式に招待される。そこで、ドレス姿で受賞プランのプレゼンテーションを行う。

 昨年の初回は、徳島新聞などメディアも好意的に報道した。しかし、「ドレスは必要なのか」「今どきシンデレラはない」「起業支援を受けるのに、なんで『女らしさ』をアピール?」といった声もSNSなどで上がる。

 「男性目線ではないか」という批判もある。しかし、協議会によると、企画したのは女性経営者らでつくる女性起業家サポート研究会。受賞者には、会員企業から賞品が贈られたり、経営についての助言が受けられたりするが、ドレスレンタルもそうした副賞のひとつ。貸衣装業者が提供している。

 協議会の事務局担当者は、「なかなか一歩を踏み出せない女性を応援するのが趣旨」とし、「『周囲の力も借りて自分の夢をかなえましょう』という意味でシンデレラをテーマにしている」と言う。ドレスについては着用の希望の有無を尋ねているとし、「昨年は皆さん、喜んでくれた」と説明する。

 昨年の受賞者3人に話を聞くと、「結婚式をしていなかったので、ドレスを着られてうれしかった」「イベント感覚で楽しめた」との答え。ビジネスにつなげるのが参加目的なので「ドレスもいいが、起業支援に直接つながる賞品を増やしてもいいかも」という声もあったが、総じて好評だった。

伝わらない意図

シンデレラの絵本や、シンデレラを研究した本。シンデレラ物語は読み続けられる一方、批評の対象でもある

 男女格差の是正が国際的な課題として認識される中、女性起業家の支援は必要な施策だ。協議会の「女性を応援しよう」という意図が、そう伝わらないのはなぜか。

 大きな理由のひとつは、シンデレラ像をどうみるかの違いにある。協議会はシンデレラ像を肯定的にみているようだ。しかし、世の中の人がみんなそう捉えている訳ではない。

 シンデレラはグリム童話などにも登場するが、日本で広く認識されたシンデレラ像は、ディズニーが制作した映画に基づく。

 このシンデレラ像について、例えばジェンダー研究者だった故若桑みどりは、著書「お姫様とジェンダー」(ちくま新書)でこう読み解く。

受け身と美しさ

 女の子は努力せずとも、人の言うことを素直に聞き、きれいでいれば、王子様によって幸せがもたらされる―。「受け身」と「美しさ」が主要な特徴なのだ。映画が制作された1950年当時の米国での女性観が色濃く反映されている。

 80年代には、女性の内心にある他人への依存願望を示した「シンデレラ・コンプレックス」という言葉も生まれた。英国の人気俳優キーラ・ナイトレイは昨年10月、子どもには自立を求めるため、「『シンデレラ』は見せていない」とテレビ番組で発言している。

 シンデレラをテーマに企画するという表現の自由はあるし、「ドレスが好きだから着る」というのは自己決定権のひとつ。しかし、ターゲットを絞った企画でも、ウェブ上のコンテンツとなった途端、あらゆる人に届く。

 徳島市の女性経営者(36)は、「シンデレラは自分で階段を上らず『周囲に引き上げられた人』。起業すれば実際、いろんな人に引き上げてもらうこともある。しかし、『引き上げてあげる』と前面に出されると・・・」と「上からの目線」を感じ取る。

 「徳島に女性社長が多いのはその人自身に力があるからなのに、『引き上げられた』シンデレラのイメージを重ねて発信するのはどうなのか」と疑問を投げ掛けている。

 シンデレラは「美しさ」だけで成功を手にしていることから、県西部の女性会社役員(43)は「能力が評価されるべき仕事の上でも結局、女性は美醜に言及されるのだと受け止めた」と残念がる。

共催に県の名も

 共催には徳島県が名を連ねる。地方自治体は男女共同参画社会基本法の下、性別に関わりなく活躍できる社会を目指すことが求められている。県企業支援課は「公金の支出はなく、企画立案にも関与していない」とし、共催を決める際にジェンダーの観点からの議論は「特になかった」とする。県男女参画・人権課に見解を求めると、その翌日に「事業内容が明確に分からないのでコメントできない」との回答がきた。

 フェイスブック経由で知ったという福岡市の女性経営者(46)は最近のジェンダー観を背景に「外から見たら、徳島にネガティブな印象しかもてない」と指摘し、「誰か異論を唱える人はいなかったのか」といぶかしがっていた。

 ジェンダーに詳しい経済ジャーナリストの治部れんげさんは「ドレスは好き嫌いの問題なので否定しない」としながらも、「リーダーシップがテーマの『アバローのプリンセス エレナ』など、2000年代に入ってディズニーが描くプリンセスは自立しており、自分の才覚で進路を切り開いている。プリンセス路線でいくなら、ストーリーを現代版に更新する方法もある」と提案する。

「女性像」問われる表現法 企業CM 多様性考えた発信を

西武・そごうの新聞広告

 

 近年、企業などが発信する女性像に、さまざまな意見が寄せられるようになった。2019年が明けて早々には、大手百貨店西武・そごうが制作した広告を巡って賛否の議論が起きた。クリームパイを顔に投げつけられた俳優安藤サクラの写真に、「女の時代、なんていらない?」とのコピーが入る。写真に対し、「女性を踏みにじっている」といった批判が上がったほか、「されるがままの姿が現状の差別を受け入れているように見える」という意見もみられた。

 男性上司に容姿を皮肉られて、外見を磨こうと奮起する女性を描いたルミネのPR動画(15年)は「セクハラだ」などと批判を受けた。一人で育児に奮闘する母親を描き、「その時間が、いつか宝物になる。」というコピーで締めくくったユニ・チャームのオムツのPR動画(16年)は、「ワンオペ育児を肯定している」と否定的に解釈された。

 企業などが描き出す女性像への異議申し立ては新しいものではない。女性の地位向上を目指したフェミニズム運動が広まった1970年代から、「抗議行動」という形で展開されてきた。21世紀に入って広がったインターネットによって、個人の意見が可視化されるようになった結果、議論が起きやすくなっている。

 男女観も変わった。もはや、伝統的な性別役割分担や型にはまった「女らしさ/男らしさ」が当然とされていた時代ではなく、男女格差の是正は国際的に取り組むべき課題と認識されている。「ジェンダー平等」は、国連が2030年までの達成を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」のひとつ。日本は男女格差が大きく、世界経済フォーラムの18年版「男女格差報告」では男女平等度が149カ国中110位と低迷している。

 こうした時代の変化を背景に、企業や組織も情報発信において変革を迫られているのが現在である。例えば、英国の広告基準協議会は今年1月から、性別による固定概念を広げる恐れのある広告表現への規制を強化している。

 治部れんげさんは、「ジェンダーに関わる表現は、受け手の経験などによって多様に解釈される」と指摘し、「日本の組織や企業は、自らの影響力を過小評価する傾向にある。しかし、表現で傷つく人がいることを踏まえた上で、社会的責任として、ジェンダーに配慮した情報発信をしていくべきだ」と訴える。