齋藤正人さん

 「裁判官にとって大切なのは柔軟性」と言う。法律の条文や先例に縛られず、社会情勢に応じた裁判を行うことが、裁判所への信頼につながると考えているからだ。「法律の文面だけを重視していては、生きた裁判ができない」。柔和な物腰ながら、信念を語る言葉は力強い。

 その信念は過去に担当した公判からもうかがえる。2010年に大阪府内の夫婦が1歳の娘を虐待死させた事件の裁判員裁判では、懲役10年の求刑に対し、両被告にいずれも同15年の判決を出した。

 「裁判員の皆さんが本当によく考え、よく調べ、議論した。それを大事にしたいという気持ちが強かった」。判決は最高裁で破棄され、減刑された。だが当時の判断に後悔はない。

 鳴門市出身。徳島市立高、早稲田大を経て1985年、司法試験に合格。弁護士志望だったものの、司法修習を受ける中で「自分の良心に従い、結論を出す仕事に魅力を感じた」と裁判官の道を選んだ。

 大阪地裁部総括判事、名古屋高裁金沢支部総括判事などを務めた。30代の頃、重圧を感じて法廷に出るのが嫌になった。苦しみながら事件と向き合う中で「さまざまな視点から見なければ、本質を見失う」と思うようになる。その考えに、2010年から始まった裁判員制度が合致した。「自分では気付かない点を、裁判員の皆さんに気付かされることも多い」

 高校時代は鉄道と自転車で通学し、地裁の桜が目に焼き付いている。約40年ぶりの古里での暮らしに「吉野川と眉山を見ると帰ってきたなと思う。昔に比べるとビルが高くなり、裁判所もきれいになった」。

 最近の楽しみはクロスバイクでのツーリング。「休日には遠乗りしたい」と笑う。一人娘は結婚し、妻を兵庫県西宮市に残して徳島市内の官舎に単身赴任。60歳。