「非現実的なことでも自分が本当だと信じて書けばそれは小説になる」と話す小山田浩子さん=広島市内

「非現実的なことでも自分が本当だと信じて書けばそれは小説になる」と話す小山田浩子さん=広島市内

 全国公募が始まった掌編小説コンクール「第3回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」の最終選考委員に新たに加わった芥川賞作家の小山田浩子さん(36)=広島市。夫が徳島県出身というゆかりがある。地方発の文学賞について「当たり前過ぎるテーマを見つめ直すことが創作のきっかけになる。自分が楽しいと思ったことや経験を出発点にすると面白い小説になる」などとアドバイスした。

「女性の応募作も読みたい」

 阿波しらさぎ文学賞は、2018、19年と連続で芥川賞作家の吉村萬壱さんが最終選考委員長を務めた。3年目の今年は、小山田さんと吉村さんが最終選考委員となり、芥川賞作家2枚看板となる。

 「吉村さんという個性的な作家と一緒にやらせてもらえ、とても楽しみ。女性の作品もたくさん読みたい」と意気込む。

 阿波しらさぎ文学賞は、場所や文化、歴史、産業、人物など何らかの形で徳島を登場させることが条件。地元だから書きにくいテーマもあるだろうと言う小山田さん。自身は生まれも育ちも広島市で、父方の祖母が原爆を体験している。「いつかは書かなければいけないテーマで、戦争や原爆について書きかけたこともあるがうまくいかなかった」

 徳島の人にとっても、例えば阿波踊りは身近過ぎて、小説のテーマにしていいものか悩むところ。だが、あえて取り上げることも一案だとする。現に昨年の大賞受賞作は、県外の作者だったとはいえ、阿波踊りがモチーフだった。

 「県外の人が想像している阿波踊りと、県内の人が思っている阿波踊りは、全然違うもの。そんなところに焦点を当てたら、誰が読んでも驚くような作品になるのでは」と、県内からの応募の増加にも期待を寄せる。

 原稿用紙15枚は一気に書ける枚数だ。日記やエッセーのつもりで書き始めることを勧めた上で、小説の自由さについても強調した。「小説は何を書いてもいい。非現実的なことでも自分が本当だと信じて書けばそれは小説になる。楽しみながら書くのが一番」

 小山田さんの小説を読んでいると、確かに夫の実家の近くに転居するとか、妻が古里の実家へ帰るとか、自分自身の体験にも似たシチュエーションが少なくない。芥川賞小説「穴」も、そんな自分と地続きのところから始まっている。作品を書いている季節の描写も取り入れると、作品が生き生きしてくるという。

 約10年前に夫と結婚。以来、年に2回は徳島へ帰省しており、徳島の観光名所にも多く訪れた。母親でもあり、子どもと広島市内で3人で暮らす。

 広島と徳島の方言は似ており、18年に出版した短編集「庭」に収録した「うらぎゅう」にも、そんなしゃべり方を使った。徳島市の伝統文化「砂灸」にヒントを得た小説だ。

 シシ鍋など小説に食べ物を登場させることも多い。「義父が趣味で釣ってくれたアユやイカもおいしかった」と、徳島の食文化にも思いをはせた。

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 募集要項 https://www.topics.or.jp/articles/-/309583

 徳島新聞社と徳島文学協会は「第3回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」の作品を6月10日まで募っている。