中四国のライブハウス店長らによるトークライブ「ライブハウスと人―徳島編」が、徳島市のクラブ・グラインドハウスで開かれた。複数の会場でライブを行う「サーキットイベント」やコピーバンドライブ、朝ライブなど、個性豊かなイベントを企画していることを紹介。地方で暮らす若者に「田舎だからできない」と諦めてほしくないという思いで、夢を追う背中を後押ししていることを語った。一部を抜粋して紹介する。

 〈登壇者〉
 長谷川洋星(徳島市・グラインドハウス店長)
 井川晃里(高松市・CDショップ兼イベントスペースTOONICE店長)
 今谷修司(広島県尾道市・ライブハウス尾道B×B店長)
 小野川周水(高知市・インディーズレーベル「ポケットブックレコーズ」代表、元ライブハウス勤務)

左から長谷川さん、井川さん、今谷さん、小野川さん=徳島市のクラブ・グラインドハウス

 ◆理想のライブハウス
 今谷 尾道唯一のライブハウスが20歳のときなくなった。中高生は活動の場を失う。「尾道で活動しているからできなかった、広島ならできたのに」という思いを若い子にさせたくなくてライブハウスを引き継いだ。バンドがうまかったら東京・大阪へ行こうとなりがちな中で、上京できない事情がある人もいる。地元バンドのステップアップの場になれば。

 井川 若いころを振り返ると、ライブハウスは怖いけどかっこいいからそこにいたい、という場所。うちのライブハウスにはいつもいるくらい熱心なお客さんがいる。そういう人が多くいてくれるのが理想。

 小野川 僕は、ライブハウス、お客さん、バンドのバランスが大事だと思う。その三角関係がしっかりできているとそのハコの味にもなるし、面白いイベントができる。

 長谷川 誘われてライブを見に行ったとき、出演者としては面白いけど、見に行く側としては窮屈なときがある。僕たちはバンドマンと距離が近いから、お客さんを置いてきぼりにしないようにしたい。


 ◆個性豊かなイベント
 今谷 ライブハウスは間口が広いほうがいいと思ってジャンルを問わずやってるけど、TOONICEの間口の広さは無限。朝ライブもおなじみ(笑)。

 井川 朝5時までレゲエのイベントやって、次のバンドが朝7時入りというのもあった。面白いもの、びっくりしてもらえるものがやりたい。12時間耐久ノイズフェスとか(笑)。

 今谷 うちでは1人1曲選手権はめちゃくちゃ盛り上がる。「ギター弾けないけど」ってカホン叩き語りもいて毎年25組くらい出る。普段ボーカルやってないやつも「1曲なら」って気軽に出られる。


 ◆コピーバンドについて
 井川 間口の広いうちも、コピーバンドは断ってる。コピーがだめなわけじゃなくて、コピーバンドがライブできるハコはほかにもある。既存のものを極力そいで、ほかがやってない新しいことができたらいいなと。13日の金曜日がある月だけコピバンのイベントをしている。

 今谷 うちは、年1回やっている「コピーバンドドラフト会議」は人気。リーダーが4人いて、ドラフト会議方式でメンバーを選出する。くじに外れた人に次に誘われる人の気まずさったら(笑)。

 長谷川 オリジナル曲を作ってライブをやるようになると、「こういうニュアンス出したい」とメンバーで話すことがある。コピーをやると、楽譜通りには演奏できているけど、聴いたときのこの感じが出せないみたいなのがあって、そこを研究することでプレイヤーとして成長できる。


 ◆サーキットイベント
 今谷 地元バンドが出なくて有名人ばかりのイベントは絶対やりたくない。サーキットイベントを始めて、「どんな有名人が出るの?」って聞かれるけど、「有名人は出ないけどいいバンドいっぱい出るぞ」って答えている。それだけで判断してほしくないし、地元バンド出ないんだったら尾道でやる必要ない。うちは会場間の移動が徒歩18分なのが難点。

 長谷川 僕も徳島でサーキットイベント「若者たち」(4月28日)をやる。一番遠い会場まで6~7分くらい。四国でサーキットというと高松のサヌキロックコロシアムで、会場間は2~3分。尾道は景観を楽しんで歩けるし、立ち寄れる飲食店もある。サヌキロックも商店街なのがいい。

 井川 高松はライブハウスが密集している。サヌキロックでは隠れステージになっているけど、自分でもサーキットイベントを企画しようかと。


 ◆地方だからできること
 長谷川 田舎だから都会へのコンプレックスがある。フェスやサーキットは都会にはかなわないので、その企画に熱中してしまうと、この街でなくてもいいよね?って若い子は東京や大阪へ行ってしまう。この街でできることをすることが大切。

 今谷 この街じゃないとできないことがある。尾道で「困ったな」っていうことはあっても、できないことはない。うちの地元が一番面白いと思っている。

 小野川 ライブハウスをやるには嗅覚が必要。ライブハウスの人が最初にいろいろなバンドの存在に気づかないといけない。状況がよくないのは地方はどこも同じで高知も人口は寂しい。でも、いいバンドはいるし、頑張っている。

 井川 (バンドマンを)増やそうとしても増えるものではなく、かっこいいと魅力を感じたからやる。そう思わせられるものを自分が見せられるかどうか。育てるというより、自分が何を発信できるか。気づいてくれる人は気づいてついてきてくれる。