小区の出入り口に設置された防疫ステーション=北京

 事務所を開けてみたものの、新型コロナウイルスの影響で北京の街は人っ子一人おらず、ゴーストタウンの様相を呈している。本店も顧客も通常業務は求めていないという認識のもと、駐在員事務所が何とか継続するために、本当に必要な仕事は何かと考える。

 現地職員からマスク不足の訴えが多かったので、各家庭を訪問して事務所の備蓄を配ることにした。久しぶりに社用車で遠出すると、交通量が激減しているだけでなく、レストランも各種商店もほぼ閉鎖され人通りがほとんどなかった。

 職員は何棟かの集合住宅が集まった「小区」と呼ばれる地区に住んでいる。どこの小区も厳重に封鎖され、中国らしい赤い横断幕に白字のスローガンが掲げられている。「一致団結して肺炎との全面戦争に必ず勝利! 出歩かず集まらず、感染の機会を減らそう!」という内容だろうか。

 限られた入り口には防疫ステーションが設置されている。基本的に来訪者は入れず、住民も日常的な出入りの際には検温をはじめとする健康申告を記録している。里帰りなどで小区から長期間離れていた人は、より詳細な申告が必要だ。とりわけ、武漢を含む湖北省から戻った人は自室で隔離。飛行機の便名や座席など帰還ルートを厳格に申告させられるという。職員には入り口に来てもらい、救援物資を渡した。

 武漢という大都市から小区レベルまで封鎖された。封鎖に関し、日中の違いを感じた。

 そもそも中国で都市は北京城、西安城など「城」と表記される。日本で「城」は領主のいる要塞、または政治の中心となる建物を指す。これに対して中国では城下町全体を「城」と呼び、周囲を高い城壁で囲むのが一般的だ。その外側の「城外」には広大な農耕地が広がる。そして外敵が来襲すると門を閉じ、守りを固める。

 現代では都市の巨大化に伴い、城壁が残っている街は少ない。とはいえ、長年のDNAのようなものだろうか。「都市封鎖」の手法は案外、中国の伝統に即したものかと納得する。

 2月6日、北京は大雪に見舞われた。内陸の乾燥都市なので冬場は100日以上雨が降らない年が多く、異常気象かもしれない。往来が少なく、積もった雪に足跡もわだちも付かない。美しいような空恐ろしいような、不思議な感覚に襲われた。

 目に見えないウイルスがどこにいるのか分からない恐怖がある。各所に設置された検温スポットで37・3度以上あると、その場で強制隔離されるという風説が流布し、それも怖い。テレビ映像などで医療崩壊した病院の現場を見ると、病院に行くとむしろ感染しそうだ。とにかく自分が倒れては話にならない。免疫力を高めるため適度な食事・運動、十分な睡眠をとって、健康を第一に過ごす。(越智幹文・国際協力銀行北京駐在員事務所首席駐在員=徳島市出身)