北京市内のフードコートで昼食を取る市民。新型コロナウイルス対策で、テーブルに客が向かい合わせで座らないように片側の椅子が机の上に置かれていた=3月25日(共同)

 3月に入ると、北京の街の雰囲気が随分変わってきた。人通りも往時の5~6割くらいまで回復し、商店やレストランも徐々に再開。公表される感染者・死者数は落ち着いてきた。

 至る所での検温など厳しい防疫体制にも慣れ、逆に感染リスクから守られている安心感がある。少なくとも37・3度以上に発熱している人は出歩いておらず、人々の表情は明るくなり検温にも積極的に協力しているようだ。不便極まりない生活に耐え、ようやく感染抑止という成果を実感しつつあるのだろうか。自信のようなものさえ感じる。

 防疫の管理体制も洗練されてきた。非接触型検温計で体温を測定して手書きで記録していたのが、QRコードと顔認証システムを改良したようなサーモグラフィーに進化した。オフィス単位で管理する仕組みも定着。所属職員の健康状態と移動状態を地元政府の衛生当局に報告している。

 私も事業主として、それらに加え、職場の衛生状態に責任を負う旨の誓約書にサインした。衛生当局からは▽半数以下の職員しか出社させず、他は在宅勤務にする▽一人一人の距離を1メートル以上保つ▽マスクや消毒液といった防疫用品を十分にそろえる―などが求められた。虚偽申告や環境に不備があれば処罰される。部下は10人。全員の体温を含む健康情報を、当局のサーバーに毎日アップロードしている。情報が承認されなければオフィスビルの入館証が発給されず、当局が抜き打ち検査をする念の入れようだ。

 その頃から中国以外の感染者・死者数の増加が世界のニュースの中心となり、中国も入国者への水際対策を強化した。2月は日本から入国するのに特に制限はなかったけれど、まずは14日間の自宅隔離義務、そして空港での特別検疫が導入された。やがて自宅での隔離観察が認められなくなり、政府指定施設での隔離観察となった。ついには国際線が北京空港に着陸できなくなった。周辺の空港にいったん着陸し、検疫を終えてから北京入りする。

 水際対策の強化について「新型コロナウイルスの震源地は中国なのに、外国からの入国を規制するのは理不尽だ」との意見がある。自分が苦しい時に日中友好を語りながら、手のひら返しでひどいという見方もあるようだ。

 ただ中国からすると、武漢という1100万人都市を犠牲にし、全国で2カ月近く厳しい防疫体制を敷いた。人民が耐えて感染拡大を抑えている状況だけに、中国から見て手ぬるい対応の外国から、ウイルスを逆輸入するのだけは絶対に避けたいという意図があると思う。

 入国規制は、外国人だけでなく帰国する中国人に対しても適用されている。自国民の生命と健康を守るのは、友好関係を超えた話なのではないだろうか。(越智幹文・国際協力銀行北京駐在員事務所首席駐在員=徳島市出身)