小区の入り口に掲げられたスローガンには「出歩かず集まらず、感染の機会を減らそう!」と書かれていた=北京

 中国は、日本では考えられない強力な防疫体制を敷いて徹底的に実行してきた。新型コロナウイルスの感染拡大は何とか抑え込めているようで、湖北省以外では新規感染者数が1桁の日も多い。

 中国が発表する統計の精度が疑わしいとの見方もある。しかし、実際に2カ月近く当地に身を置く肌感覚からは、統計に多少の齟齬があったとしても、とんでもないでたらめだとは思えない。

 連載の最後に、現在の日本の対応についてコメントしたい。

 防疫対策に限らず、制度や政策は、それぞれの国が持つ特性やリソース(資源)によって違ってくる。患者ごとに処方箋が違うようなものだ。病状や体質の違う人に同じ薬を投与しても、同じ結果が出るとは限らないのと似ている。

 中国では強い公権力と得意のIT技術を駆使し、国民の自由を制限してプライバシーの領域にまで踏み込んだ管理を行う。感染が疑われる人は強制隔離。経済的損失を覚悟の上でレストランや商店を閉鎖させ、工事などを停止して感染拡大の抑え込みに取り組んだ。それは一定の成果を上げている。

 一方で、強引に中国方式を導入したものの、国民の強い反発を招き、狙ったような成果が上がらない国も多い。

 日本のこれまでの対策は独特かもしれない。医療崩壊を起こさず、重症者・重篤者にしかるべき医療を提供するのを最優先し、一連の政策が設計されていると感じる。感染者の8割が軽症で快癒するといった新型コロナの特性を踏まえるとともに、国民の衛生観念と規律、モラルを信じ、そして、クラスターと呼ばれる感染の連鎖を突き止めることに政策の力点が置かれている。一般的な感染拡大防止策は、重点から少し外れているのかもしれない。

 日本の感染者数や死者数は他国に比べてまだ少ない。それは検査件数の少なさもあろうが、「衛生観念と規律やモラル」という要素も大きいのではないか。

 ほとんどの日本人は小さい頃から親に「手洗い、うがい!」と厳しくしつけられてきた。以前から街中には抗菌グッズがあふれている。このことからも、衛生観念は他国より相当高いだろう。

 多くの日本人にとって、感染症対策は日常生活のプラスアルファにすぎない。あとは感染が疑われるような症状が少しでも見られたら、他者に感染させる可能性を念頭に行動を自重する。感染リスクの高い場所を極力避け、不要不急の外出を控えるのは無理難題ではないはずだ。

 確かに一斉休校や行動制限は不便極まりない。イベントの中止もつらい。ただ、これらの我慢は政府のためのものではない。自分と自分の身近にいる人を守るためである。強制や罰則がなくとも、日本は自律的に行動できる人が多いお国柄のはずだ。

 震源地の中国ですら、彼らに最も適した方法で抑え込みができている。日本でも一人一人が日頃の心掛けを確実に遂行し、自分自身と周りの人に少しずつ思いを寄せて行動すれば、感染拡大が加速してきた現状も乗り越えられる。そう信じている。(越智幹文・国際協力銀行北京駐在員事務所首席駐在員=徳島市出身) =おわり