四代目の新田啓二さんと父の靖さん(81)

昔の雰囲気を残しつつ中に入ったら驚くような銭湯に

 1933年(昭和8年)、昭和湯は津田の漁師町で暖簾をあげた。まだ各家庭にお風呂がなかった時代。漁から帰ってきたら銭湯に直行するのが地域の人たちの日常だった。押しあいへしあい肩を並べて体を洗い、世間話をしながら湯船で疲れを癒した。木造のシンメトリーな三角屋根は、当時から人びとを見守り続ける地元遺産ともいうべき存在だ。そんな愛され銭湯が平成の終わりに大改修を遂げた。生まれ変わった空間は、懐かしさを残しつつ女性好みのモダンなデザイン。昭和湯の新時代を作らんと思案を巡らせるのは、四代目の新田啓二さんだ。

 「小学生の時から家の仕事を手伝っていました。父は勤め人で日中いなかったので、銭湯の仕事は母が中心だったんです。学校から帰ってきたら母と交代して番台に座ってました。今でもその頃の常連さんの顔を覚えてます。たまに同級生の女の子も来たりして、そりゃ気恥ずかしかったですよ」と幼少期を振り返る。「風呂の焚きつけから接客、掃除と、朝から夜中まで大変そうに働く親の姿を見て育ったので、家業を継ごうと思ったことはなかった」と苦笑いしながら明かす。高校卒業後は調理の職に就いたのち、電気関係の仕事に転職。結婚して長女が生まれた頃には、電気工事の現場責任者を任され、徳島県内や淡路島を飛び回っていた。

昔の昭和湯。「終戦直後から昭和中頃ぐらいの写真と思う」と振り返る

 状況が変わったのは、7年ほど前。三代目として切り盛りしていた父・靖さんの視力が低下。車の運転がままならない状態になり、ボイラーの燃料として使用する廃油の回収に行けなくなってしまった。その頃は東日本大震災の直後で、新田さんの胸中には「出張が多くて何かが起こった時に嫁さんと子どものそばにおれん」というモヤモヤもあった。それらが重なり、41歳で家業に入った。

 それからは「トラブルが修行(笑)」。ボイラーや濾過機、ポンプ類などが密集する釜場では、温度が上がらなかったりタンクに水が貯まらなかったりと何か不具合が起きるたびに自分で原因を見つけ修理するのが基本。父に聞きながら経験を積み、「今は対処の仕方がわかってきた」と安堵をにじませる。

男湯。かわり湯(薬湯)、白湯、シルキー湯、水風呂があり、肌ざわりの優しい軟水を使用している。

 家業を継いで3年ほど経った頃、老朽化が進むタイルを張り替える話が持ちあがる。若者の銭湯離れをひしひしと感じていた新田さんは「これを機に、若い人や女の人が来てくれるような設備にしたい」と全面改修を決意。父に相談すると、平成が終わろうとする節目での大改修を大いに喜んでくれた。

 完成図を思い描くにあたり、東京で流行っている銭湯を巡り、参考にした。「“古さ”も大事な良さ。壊してしまったら二度と手に入らんものがある。昔ながらの雰囲気を残しつつ、中に入ったらびっくりするような銭湯にしたい」と考えた。設計は、地元津田出身の建築家・内野輝明さんに頼むことに決めた。

暖簾には家紋の花剣菱を刻印。マガジンラックには銭湯関連の書籍が並ぶ。

 三角屋根の外回りはそのままに、内装を新しくした。女性が居心地よく過ごせるよう、脱衣所の手前にロビー兼ギャラリースペースを設け、そこに番台を配した。脱衣所には創業当時から残る天井扇をオブジェとして取りつけ、古い柱も残した。タイル選びには特にこだわり、手洗い場にはレトロな玉石タイルと金魚の形のタイルをセレクト。浴室の仕切壁は、内野さんのユニークな提案により津田山の稜線をかたどった曲線美を取り入れ、壁絵は芸術大学に通う内野さんの娘さんに描いてもらった。たくさんの狸を主役に津田の史跡や伝説を表現した躍動感あるペンキ絵が、昭和湯の新しいシンボルとして誕生した。

軒下イベントの様子。この日は手作り豚まんの片寄食料品店が出店し、屋台のように賑わった。

 「道を通りかかった人が足を止めてくれるように」と軒下のスペースを有効利用しようと考え、SNSで出店者の募集も始めた。これまでたこ焼や麺、パン、足もみなどさまざまなジャンルの店が日替わりで出店し、評判を呼んでいる。「まだまだ新しいことができんかと模索しているところ。来てもらえるきっかけになるよう、お風呂以外のお楽しみを増やしていきたいです。音楽イベントとか落語とか、演芸もいいですよね。たとえば定休日に館内でフリーマーケットしたりとか、そういう祭り的な催しもできたらいいなぁと考えています」。

 銭湯を守る立場になって、改めて気がついたこともある。「やっぱり、人は“人”に寄ってくる。お客さんと世間話したり仕事の話したり、何気ない会話を大事にしていきたい。時代に逆行してるかもしれんけど、直接顔を合わせて人とつながることが必要とされてるのでは?と思うんです。昔から公衆浴場は人と人との交流の場。その役目を守っていきたい」。古きを守り、新しきに挑む。四代目の覚悟は揺るがない。

住所=徳島市津田本町3-3-23
営業時間=14~22時半(最終入場22:00)
定休日=毎月3日・13日・23日休
入浴料=中学生以上400円、小学生150円、幼稚園以下70円
駐車場=あり
問い合わせ=088-662-0379