徳島県阿波市土成町の國永孝さん(61)美由姫さん(59)夫妻が、自宅近くの山あいに牧場を設け、子どもからお年寄りまで気軽に楽しめる乗馬教室を開いている。口コミで集まるようになった人の中には、不登校や引きこもりなどの悩みを抱える親子も交じる。國永さん夫妻も長男が同じような経験をしており、少しでも役に立ちたいと、さまざまな境遇の子どもたちと向き合っている。
牧場は約1260平方メートル。約400平方メートルの馬場が2カ所あり、厩舎(きゅうしゃ)で4頭の馬を飼育している。乗馬が趣味の夫妻が、気軽に通える施設の少ない県内でも乗馬に親しめるようにと、昨年10月にNPO法人「セラピー乗馬てくてく育成会」を設立して運営している。
入会金1万円の会員制で年齢は不問。事前に予約すれば千円の騎乗料で30分程度、馬との触れ合いを楽しめる。指導は主に孝さんが担い、引き馬など基本動作から丁寧に手ほどきしている。
孝さんは会社員だった約10年前、同僚に誘われて乗馬を始めた。美由姫さんも一緒に行くようになり、週末を利用して夫婦で県内外に乗馬に出掛けていた。
定年後に夫婦で馬を飼って野外で乗りたいと、2013年に土地と馬2頭を購入。馬場や厩舎などを少しずつ整備してきた。当初は夫妻で楽しんでいたものの、次第に近所の子どもたちを無料で乗せるようになった。口コミで人数が増えたことから、餌代や運営費を賄うため低額の会員制にした。
夫妻の長男は小学校高学年から中学校にかけて不登校になった。定時制高校を出て就職したが長続きせず、自宅に引きこもった。孝さんは「当時は物事を決めつけて接してしまった。否定も肯定もせずに話を聞いたり、一緒にできることを考えたりすればよかった」と振り返る。その経験を基に、悩む人の力になろうと心掛けているという。
上板町引野、会社員藤井恵さん(37)は、小学5年の長男稀理翔君(10)らきょうだいが馬に興味を持ったため、16年秋から月3~4回訪れている。「乗馬で自信がついたのか、以前より主張できるようになった」と長男の成長を実感している。
孝さんは「子どもたちの心のよりどころになれば」と話している。