仮設住宅を出たらどこに行きたいですか。本紙記者の問いに高齢女性はこう答えた。「あの世よ。このままここで死ぬのを待つだけ」。熊本地震の発生から2年を迎えた14日、震度7の揺れに2度見舞われた益城町を訪れた。1年前、町内に点在していた倒壊家屋は全てなくなり、あちこちで自宅再建のつち音が響く。一方、自力での再建が難しい人は今後の生活に不安を抱えたままで、「復興格差」が生じ始めていた。
町では、公費や自力での倒壊家屋の解体・撤去が全て完了。更地が大幅に増え、真新しい平屋建ての住宅が目につく。道路整備や折れた電柱などの除去も進み、風景は昨年と一変した。
「50年以上ここに住んでるけど、時々曲がり角が分からなくなる。景色が全然変わっちゃったから」。町中心部の宮園地区に夫(81)と2人で暮らす吉村サチヨさん(77)は笑う。
吉村さんは地震で自宅が全壊し、近くの仮設住宅に入居。自力で家を再建した昨年10月、住み慣れた土地に戻った。「周辺に人がいなくなってさみしい。仲良かった人が一体何人戻ってこれるのか。家は建て直したけど、地震前と同じようにはいかない」。更地が広がる周囲を見渡しながらつぶやいた。
吉村さんのように自宅再建に踏み切る人が増えた半面、町内の約2割に当たる2507世帯6428人(2月末時点)が仮設暮らしを強いられている。住宅再建工事に当たっていた同町広崎の建築業出田宏行さん(50)は「地震保険の加入者や収入がある人が家を建て直せているのが現状だ」と言う。
金銭的に余裕のない仮設入居者が待ち望むのは、災害公営住宅(復興住宅)の完成。自宅再建を諦める人が増えたため、町は当初の計画の2・3倍に当たる680戸を整備する予定だが、用地が確保できておらず、完成のめどは立っていない。
県内最大の516戸の仮設住宅が並ぶ同町小谷のテクノ仮設団地。3月末までに約100世帯が退去し、残った人たちは不安を募らせる。
2016年8月から1人で入居する林田豊さん(72)は「被災後しばらくは家を建て直したいと思っていたけど、いつまで生きられるか分からないのに今更借金はできない。復興住宅の入居希望者は今後も増えるだろうし、確実に入れるだろうか」と嘆く。
地震直後から町内の被災、復興状況の写真撮影を続ける同町木山の写真館経営林眞二さん(59)は「世帯間で再建のスピードに差が出ている。地震直後に比べると復興は進んでいると感じるが、爪痕は残っている」。撮影した写真を眺めながら、ため息をついた。