世界史を覆しかねないロマンあふれる伝説や、身の毛もよだつおどろおどろしい伝承、生命や性の根源に迫る神秘的な現象など、徳島県内には不思議な逸話が語り継がれる地域や施設が数多く存在する。そんな気になるスポットを巡って知られざるルーツや見どころを紹介するこの企画。記念すべき第1回は、オープン10周年を迎える三好市山城町の「妖怪屋敷」を訪れた。

今回の目的地・妖怪屋敷は高知県境に近い吉野川沿いの切り立った崖に建つ

 徳島自動車道・井川池田インターチェンジから国道32号を経由して車で約40分。妖怪屋敷はアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」でおなじみの「子泣きじじい」の古里・三好市山城町にある。この地に伝わる妖怪は約70種類、伝承は170カ所以上に残り、それらをモチーフに作られた妖怪人形約70体を展示する。

 子泣きじじいと龍神が出迎える入場ゲートをくぐると、最初に目に飛び込んでくるのが天井につるされた巨大な大天狗(てんぐ)だ。来場者を威圧感たっぷりに見下ろしており、なかなかのインパクト。山城町には天狗岳、天狗滝といった天狗の名が付いた場所が5カ所あり、悪事をはたらいた旅人が天狗にさらわれたという話が3カ所で伝わっている。

来場者を見下ろして威圧する迫力満点の巨大な大天狗

 

間の抜けた表情でどこか憎めない高入道

 さらに進むと、見上げれば見上げるほど大きくなるという僧侶姿の高入道(たかにゅうどう)、そして足元の木の葉の裏に潜んで人をさらうシバテングが現れる。このシバテングは1940年頃、親戚の家に行った帰り道に姿を消した小学生の神隠し事件から生まれたという比較的新しい由来を持つ。

 他にも、銭貸し妖怪、ヤマジチ、うどん狸、青坊主、カワミサキなど愛嬌(あいきょう)のあるネーミングの妖怪が並ぶ。「ヤマジチは丸い焼き石を白い団子と一緒に食べて退治された」などと、それぞれの伝承を解説するパネルが付いており「山道や里」「水辺」「憑(つ)き物」といったテーマ別に配置されている。
 
 展示されている人形は全て、地元の住民団体「四国の秘境・山城大歩危妖怪村」による手作りだ。「村民」が幼い頃に村の語り部から伝え聞いた妖怪話を基に、想像力を膨らませてデザインし、発泡スチロールや木材を削ったり磨いたりして完成させた。

人間の想像力が生んだ個性的な妖怪たち

 徳島県の最西端にある山城町は、かつて土佐と伊予の国境を守る山岳武士が急傾斜の山を切り開いて作った。平地がほとんどなく、一歩誤れば命を失う危険な場所が無数に存在する。妖怪は子どもに危険を警告する生活の知恵として生まれ、語り継がれてきた。
 今も妖怪ゆかりの神社やほこら、妖怪が出没したとされる滝や淵があり、妖怪の名前が明治初期の土地台帳などに地名として残っている。妖怪の存在はこの地で生きる人々の暮らしと密接に関わっているのだ。
 
 屋敷の「ラスボス」的存在は、圧倒的な存在感を放つ全高約3・7メートルの閻魔(えんま)大王だ。天狗岳の近くには「大王の足跡」と呼ばれるくぼ地があり、エンマノオカ、エンマノタニという地名にも名残をとどめる。大王の下には11月の妖怪まつりで使われる妖怪のお面16種類も展示されている。

妖怪屋敷のトリを務めるのがおなじみの閻魔大王

 

地元住民手作りの精巧な妖怪人形がずらり

 展示されている人形は一見チープな造形に見えるが、じっくり見ると細部にまで注意が行き届いた精巧な仕上がりであることが分かる。それらがずらりと並ぶと、妖怪たちのユニークな風貌と相まって見応えがある。

 この他、山奥の坑道をイメージした暗いトンネルや、「のぞくな」と注意書きがされた穴あきの障子の奥にも妖怪人形を設置。展示方法にも物語性を生かした工夫を凝らしている。妖怪伝承6話を紙芝居風にビデオ上映する「えれきてる紙芝居」や、全問正解すると妖怪屋敷博士認定証をもらえるクイズコーナーも楽しめた。 

顔出し撮影パネルで記念写真をどうぞ!

 施設はオープン当初に年間3万人以上が来館。その後も約2万5000人が訪れており、近年は外国人観光客から注目を集めている。観光地の定番である顔出し撮影パネルも妖怪屋敷仕様。お土産物には、うちわやストラップ、せんべい、地酒など7種の限定品がそろっている。

 営業時間は午前9時~午後5時(新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、5月6日まで休業)。入館料は大人600円、小中学生300円、幼児無料。問い合わせは道の駅 大歩危〈0883(84)1489〉。