日本の女性が初めて参政権を行使した1946年4月当時、国会議事堂には女性専用トイレがなかった。誕生した女性議員は、それまで男性が使っていたトイレを一緒に使ったという。現在、国会議事堂ではこうした男女共用トイレは姿を消している。しかし、徳島県内の24市町村庁舎で議場のある階のトイレを調べると、上勝、那賀両町、佐那河内村の3議会で男女共用トイレが残っていた。女性の進出が進まない地方議会。トイレすらも、進化に取り残されている。
上勝町議会の議場は、83年に建設された町庁舎の3階にある。トイレには男性用の小便器三つと男女共用の個室二つが並ぶ。一方、正面玄関がある2階にはモダンな多目的トイレと男女別トイレがある。町議会の女性議員は1人。3階には会議室もあって一般女性が訪れる機会も多いが、多田光利・議会事務局長は「2階に降りてトイレを利用する女性が多いようです」と話す。
那賀町では、町庁舎の1、2階には男女別のトイレがあるものの、議場と議員控室のある3階は男女共用。この階は合併前の旧鷲敷町庁舎を増築せずに利用しており、「女性専用トイレを作るスペースが足りなかった」と三好俊明・まち・ひと・しごと戦略課長は説明する。
下の階に駆け降りる
町議会で唯一の女性議員である連記かよ子議員は、下の階に降りてトイレを利用することが多い。まれに、「私が使うから来ないでね!」と他の議員に声を掛けて共用トイレを使う。「でも、そう言える女性ばかりじゃないですからね」(連記議員)
佐那河内村では村庁舎の3階にあるホールが議場となる。68年に建てられたこの庁舎では全てのトイレが男女共用だ。隣接する農業総合振興センターに男女別のトイレがあり、村の女性職員はここまで来ることが多いという。村議会に女性議員はいない。2021年には新庁舎が完成予定で、こうした不便も解消される見込みだ。
最近まで男女共用トイレだった町もある。勝浦町は16年の改修前、議場のある3階と議員控室のある2階のトイレは男女共用だった。美馬友子議員は「(11年の)初当選時は、休憩になると1階まで走り降りていました」と振り返る。つるぎ町は17年、神山町は14年、板野町は13年にそれぞれ改修されるまでは、議場のある階のトイレは男女共用だった。
「男女共用トイレ」と言うものの、実際には女性が離れた場所にある女性専用トイレを利用している場合が多い。米国では90年代、連邦議会議事堂の女性用トイレが男性用トイレより議場から遠く、法律家が「不当な性差別」と訴え、その後改善が見られている。
市町村議会の議場のトイレは議員や傍聴者だけでなく、職員も高い頻度で使っている。共用トイレを利用する女性もいたが、「男性がいないときを見計らう」などと気を使っていた。男性からも「恥ずかしい」「自分が入った個室の隣に女性が入ると慌てる」との声が聞かれた。
米国の社会学者アーヴィング・ゴフマンは、偶然居合わせた人への配慮として無関心を装うことを「儀礼的無関心」と名付けた。男女共用トイレでは、こうした態度が強く求められ、気が休まらない。盗撮など犯罪のリスクもある。
規則は男女別定める
労働安全衛生法に基づいた事務所衛生基準規則は、トイレについて「男性用と女性用に区別すること」と定める。これは地方公務員にも適用される。つまり、男女共用トイレは既に解消されていなければならない課題なのだ。
先進国でのトイレを巡る議論は今、LGBT(性的少数者)を含め多様な人が快適に使えるトイレはどんなスタイルであるべきかに焦点が移っている。
NPO法人・日本トイレ研究所(東京)の加藤篤代表理事は「不特定多数が使うトイレは、皆が安心して使えるものであるべきだ。時代によってトイレに対するニーズは変わるので、常に改善していくことが大切」と話す。