大石倫子さん(28)

 

 通報音が響くと部屋中に緊張が走る。「火事ですか、救急ですか」—徳島市消防局の通信指令課は、徳島市内からの119番通報を一手に受信する部署だ。火災や救急の状況を聞き取り、現場に応じた的確な部隊を出動させる。消防士長の大石倫子さんは、通報者の声に全神経を集中させ現場の様子を読み解く。

「3歳の頃には消防士になりたいって言ってたみたいです。両親はまさか本当になるとは思ってなかったようですけど(笑)」。家族が救急搬送されたときに見た救急隊の頼もしい姿に、漠然としていた憧れが叶えるべき夢となって胸に刻まれた。阿波高校時代には自ら地元の消防署に電話をかけ、夏休みに職場体験させてほしいと依頼した。「え!? 女の子? 一人で来るんですか?って驚かれたんですが快く受け入れていただいて。救助訓練を一緒にさせてもらいました。人の命を救う仕事にますます魅力を感じました」。夢は1ミリも揺らぐことなく、高校3年で消防吏員(消防士)の試験に合格。18歳で徳島市消防局に入局した。

 入局後、徳島県消防学校(北島町)で半年間の専門教育を受け基本を学んだ。「同期は18歳から29歳まで42人。そのうち女性は2人でした。当然男女関係なく同じプログラムです。壁を登ったり降りたり、綱を渡ったり。何時間も走り続けることもあります。体力面はもちろん、規律も厳しくて本当にキツかった! それでも頑張れたのは目標が同じ仲間がいたからです。消防士は一人でする仕事ではないっていうことを消防学校で実感しました」。

 消防学校を修了し、配属されたのは徳島市西消防署の警防係。火災、救急出動や火災原因の調査、道路の水利把握など仕事は多岐に渡る。「消防車に乗って初出動した日のことはよく覚えてます。現場で消火栓から水を確保する役割だったんですが、少しでも早く送水できるようにと必死で活動しました」。4年間同部署で経験を積み、徳島市東消防署の救急救助係、警防係を経て、2017年より現職に就いている。

 「消防は人の命に直結する仕事。いろんな現場に行きましたが、なかには助けられなかった命もあります。心に残っているのは助けられなかった現場です。消防士である限り、そのことを忘れず自己研鑽に努めていきたいと思っています。火災が起きたとき逃げられなかった人がいるのはなぜか、原因を追求することが次につながります」。消防士になって10年。「まだまだひよっこ」だと謙遜しつつも確固たる信念を持つ。「日々ベストを尽くすのが消防士。瞬時の判断力が求められるので、いつも全力で向き合う。電話を取るのも全力です」。

 世間では男性の職場というイメージが強いが「これまで現場で『女の人が消防士でいけるん?』って言われたことがないんです。どちらかと言うと『頑張ってな』と声をかけてもらうことが多いです。男性と女性では背丈や筋力など絶対的に違う部分がありますが、女性だから気づけることもあるはずです。男性の強さと女性ならではの優しさを兼ね備えた消防は最強だと思うんです。女性消防士はまだまだ少ないですが、なりたいと思う人がいたら飛び込んでほしい。一緒に最強の消防を作っていきたいですね」。

一丸となって任務にあたる通信指令課のメンバー。