愛媛県今治市の海際には、造船所のクレーンが林立する。塀のない開放的矯正施設、松山刑務所大井造船作業場は、その敷地内にある。工場の周囲には小中学校。「怖い、というほどでもないですが、どうして逃げるんでしょう」と近くの女性は話した

 受刑者平尾龍磨容疑者が逃亡し1週間余りがたつ。車上荒らしに遭った車や、住宅から盗まれ捨てられていた財布のカードから、容疑者の指紋が検出された。罪を重ねながらの逃避行らしい

 「塀のない刑務所」には、生活態度が良好で、逃走や自殺を図ったことがないなど、基準を満たした模範囚が収容されている。常時監視はしておらず、窓や玄関も内側から開くそうだ

 平尾容疑者は昨年12月に入所した。3~4月に2回、刑務官から叱責(しっせき)され、落ち込んでいたともいうが、みすみす刑期を延ばすような脱走をどうして、と疑問は尽きない

 開放的施設は他に、北海道網走、千葉県市原、広島県尾道の各市にある。1989年以降、大井作業場では今回を含めて6件の逃走事件が発生しているが、他では起きていない

 模範囚が集められていることもあって、開放的な施設は受刑者の再犯率が低い。上川陽子法相は「大きな意義がある」と言う。作業場の処遇に固有の問題はなかったか。ともあれ、新たな犯罪を促すようでは本末転倒だ。