新型コロナウイルス対策として、徳島県は県外ナンバー車の流入調査を4月下旬から行っている。県内での感染拡大防止が目的で、高速道路のインターチェンジでは双眼鏡を手に職員がチェックした。これに対し、県民からは「やむを得ない」との声の一方、「差別の助長や、排他主義的な社会を生み出している」と批判的な見方も多い。取り組みに対する意見を取材した。

県外ナンバーの流入を調査する県職員=4月22日、鳴門市の鳴門インターチェンジ

 【経緯】飯泉嘉門知事は4月21日、県内4人目の感染者確認を発表する会見の場で、県外ナンバー車の流入調査を表明。感染者が「特定警戒都道府県」となっている神奈川県で3月中旬から約3週間滞在していたことを踏まえ、「今回の事案を契機とし、県外からどのくらい来られているのか、直ちに実態調査を行い、これに基づき必要な対策を速やかに講じる」とした。同日、調査を開始した。

 これに対し、県内外から戸惑いや反発の声が上がった。県外ナンバー車に対する差別行為が行われるのではとの当事者の不安や、排他主義的発想を助長するのではとの危惧からだ。

 道路運送車両法では、住所地のナンバープレートに変更することが義務付けられているが、実際は県外ナンバーのまま車を使っている人もいる。このため、県外ナンバー車の所有者が「県内在住者です」と書かれたステッカーを車両に貼る現象が起きた。

 他にも、不要不急の移動の自粛により減少しているが、県外から仕事や通院などで徳島入りしている車もある。23日には内藤佐和子徳島市長が会見を開き、県外ナンバー車を巡る嫌がらせが起きているとして「差別や分断は市として容認できない。互いを思いやる気持ちを持ってもらいたい」と呼び掛けた。

 県危機管理部によると、暴言やあおり運転などを受けたとの電話が当事者からあったといい、知事も24日の会見で「県外ナンバー車のチェックを発表したときのメッセージが少し強すぎたのかもしれない」と釈明し、冷静な対応を呼び掛けた。

反発受け他県では中止の例も

 県外からの人の流入を警戒する動きは他県でも見られる。県境をまたぐ移動自粛の呼び掛けは全国共通だが、他にも、いくつかの県が実行している主な事例として、県外ナンバー車のチェックと、駅や空港などでの検温などが挙げられる。

 県外ナンバー車の調査は徳島、長野、鳥取県などが実施。空港などでの検温は4月29日から徳島阿波おどり空港で乗客に対するサーモグラフィーによる任意の検温を始めた徳島のほか、山形、群馬、愛知、沖縄各県などで行われている。

 反発に遭い、中止に追い込まれた例もある。岡山県は山陽自動車道の瀬戸パーキングエリア(岡山市)で4月29日、来県者に対して行う予定だった検温を中止した。職員に対し「危害を加える」といった脅迫電話が相次いだためで、伊原木隆太知事が発表時の会見で「岡山に来たことを後悔するようになれば」と発言したことへの反発が影響しているとみられる。

賛成の声「やはり心配」「移動をしてはいけない」

 「4月末、四国霊場のお寺にお参りに行くと、近畿方面のナンバーの車が駐車場に止まっていた。県外から人がたくさん入って来ているのを見ると、やはり心配になる。徳島県の方針には賛成だ」 徳島市・タクシー運転手(69)

 「感染防止のためには移動をしてはいけない。しかし、理解していない人が多いんじゃないか。県境を一歩たりとも出ないし、入らせないぐらいのことをしないと、ウイルスの広がりは防げない。感染拡大が続けば、罰則付きの外出禁止令が出る事態になってしまう」 徳島市・団体職員(65)

 「県外ナンバー車の調査をするのは理解できる。しかし、徳島に長年住んでいても県外ナンバーを変えないままの人もいるし、どこまで正確なデータが集まるのか・・・。県外ナンバー車への差別は、何なのだろうと思う。悪いのはウイルス。愛媛や香川の人に比べ、徳島の人は閉鎖的な傾向があるように思う。今回はそれが出てしまったのではないか」 徳島市・主婦(63)

反対の声「ドライバーに叫ばれた」「差別を誘発」

 「県外ナンバーのバイクに乗っている。4月半ばに徳島市内の国道で、車に寄ってこられ、ドライバーに何か叫ばれた。そんなことをされたのは初めて。『県内在住者です』と書いたステッカーを貼った。このステッカーも県外の人への差別だと言われるが、バイクであおられると死ぬこともある。自己防衛のためには仕方ない」 徳島市・団体職員(46)

 「知事のメッセージは、『コロナから皆さんを守ります』ではなく『県外から来させないようにしよう』と聞こえる。差別を誘発している。差別した側は忘れるが、された側はずっと覚えている。コロナ終息後、全国から阿波踊りを見に人が来るだろうか。地震など有事の際には他県からの支援を受けることになる。徳島は、他県との交流なしには成り立たない。こんなことで故郷が有名になり、悲しい」 徳島市出身で、宮城県石巻市在住の芸術家パルコキノシタさん(54)

 「インターチェンジで双眼鏡をのぞきながら流入調査をしている光景はまるで監視社会のようで、ぞっとした。反発は容易に想像できるのに、知事の指示に対し、県庁内で異論は出なかったのだろうか」 徳島市・介護職員(51)

意見の発し方に注意を

大西聡さん

 大西聡さん(弁護士) 調査の仕方によっては、それ自体が差別を助長する恐れがありますが、県外ナンバーの調査自体が人権侵害になるとまでは言えません。感染率の高い地域からどれだけ車が入って来るかというデータ集積に意味はあります。

 ただし、知事のメッセージの発し方は大事です。差別を助長する発言や政策にならないように、細心の注意が必要です。県民のストレスがたまる中、誹謗中傷が起こりやすくなっています。そのはけ口になる材料があると、一気にそちらに向かってしまいます。

 感染拡大を抑えたい気持ちは分かりますが、発信の中身を吟味しなければなりません。悪影響が出た場合は、フォローのメッセージを出すといった配慮も求められます。

 一方、県外ナンバーであるがゆえにパチンコ店などに入店できないというのは行き過ぎかなと思います。営業の自由、どこにでも好きな場所に行く自由は、ある意味人権です。人権は公共の福祉で一定の制約は受けますが、それが許される制約かどうかの判断基準が重要になります。

 感染拡大を防ぐために必要なので仕方ないとなれば、私権もどんどん制限されてしまいます。行き過ぎた規制が不当な人権侵害にもつながるでしょう。

 営業の自由は財産権の保障と密接に関係しています。パチンコ店が象徴的になっていますが、飲食店などにも当てはまります。「自粛しろ、大変な状況だから仕方ない」では、立ち行きません。本当に県外から流入しないようにするならば、やはり営業補償をしていったん閉めてもらうというように、補償問題とセットで考えなければなりません。 コロナのまん延を何とか防ぎ、終息させたいというのは県民共通の思いです。でも、行き過ぎたり、過去の歴史に基づいて生まれた憲法や人権の観点を忘れたりしてはいけません。その都度、チェックが必要になるでしょう。

排除でなくデータ収集 

勝間基彦徳島県危機管理環境部次長

 勝間基彦徳島県危機管理環境部次長 4月16日、緊急事態宣言の対象地域が全国に広がりました。国に趣旨を確認すると、「大型連休を控える中、県をまたぐ移動を避けてほしい」とのこと。また、危機管理政策課にも「県外から(車が)来ている」と電話がかかってきていました。では、実際にどれだけの車が県外から本県に来ているのか、感覚ではなく、数字で確認してみようと調査することになりました。

 商業施設などでの県外ナンバー車の割合は高くありませんでした(5・5%、うち特定警戒都道府県は1・8%)。一方で、インターチェンジ出口の調査では半分弱(49・1%、18・4%)。やっぱり来ているのかな、と。よって、県外の方に県をまたぐ移動をご遠慮いただく手法として、遊技施設などの事業者の方に、県外客のご利用をお断りしていただくよう協力依頼をしているところです。

 (「事業者に休業要請をすべきだ」との指摘もあるが)休業要請は、感染状況や経済に与える影響を考慮して行うというのが国の方針。県内の感染者は5人で、市中感染ではないことを踏まえると、そこまでやるべきなのか、判断の余地はあるのではないでしょうか。現状では、徳島県としては、その段階にはないと判断しています。

 危機管理政策課には、県外ナンバー車に対して暴言、ひどい場合には傷をつけるなどの行為があったと被害者から電話が入っています。言語道断です。われわれの調査の意図とは全く違うもの。県外の方を攻撃することで、コロナ感染を防ぐことはできません。 「(嫌がらせは)県がこうした調査をしたからだ」とおっしゃる方もいます。しかし、われわれはデータを集めているだけで、「県外の方を排除しよう」とメッセージを流したものではありません。そこは誤解はなさらないようにと思います。