新型コロナウイルスが全国で猛威を振るう中、いま地震や台風などの自然災害に見舞われたら、住民が一時的に避難生活を送る避難所はどのように運営すべきなのか。避難所は密集、密閉、密接の「3密」を避けるのが難しく、感染者の集団(クラスター)が生まれやすい条件を満たす可能性が高い。元徳島大大学院特任助教で、国際医療援助団体「AMDA」(岡山市)で活動する鈴記好博医師(54)=徳島市=に、新型コロナウイルスを踏まえた避難所運営の方法や対策について聞いた。 

受付場所設定し体調把握 鈴記好博・元徳島大大学院特任助教に聞く

写真を拡大 避難所での感染対策について話す鈴記好博医師=徳島大

 避難所での感染症対策として必要な物には、アルコールなど手指消毒液やマスク、体温計などが挙げられる。発熱や熱などの症状がある感染疑いの人と、症状のない人との動線を分けるため、できれば出入り口が二つある施設を避難所にしてほしい。避難者はマスクや消毒液、手袋のほか、きちんと栄養を付けるという意味で食料や水を用意しておくべきだ。マスクがなければ鼻と口を覆えるハンカチや手拭いでもよい。

 避難所を開設するときは、受付場所を作ることが大切になる。受付で発熱の有無や体調を把握できれば、その時点で症状のある人を隔離するなどの対応が取れる。避難者も何らかの症状があれば、避難所の担当者にきちんと申告してほしい。このほか、感染予防の取り組みとして手洗い、歯磨き、ベッドで寝る、外から戻れば靴の泥を落とす、せきエチケットを守るといった基本的な対策を徹底すべきだ。

 避難所では避難者同士の間隔を空け、対面しないようにするなどの対策も重要になる。ただし、避難所の広さと避難人数による制約を受けるため、必ずできるとは限らないだろう。

 基本的な対策は、避難者に症状が出たら部屋を分けること。スペースがたくさんあれば、それぞれの症状で分けるのが望ましいが、多くは発熱用と下痢用の2部屋を設ける場合が多い。ただ、実際は体育館など一つの空間で発熱者とそれ以外の人とを分けるといった対応を取らざるを得ないと思う。ついたてなどで仕切り、出入り口やトイレ、食べ物の搬入口や配る時間も別々にするなどの対応が求められる。

 ついたてなどで分ける場合、同じ場所に避難している健康な人を説得して理解を得たり、避難者の行動を制限したりする必要がある。世話が必要な子どもや高齢者らが隔離対象になった場合、面倒を見る家族らはどうするかといった課題についても事前に考えておくべきだ。

 新型コロナウイルスに関して言えば、PCR検査など現時点で行われている診断方法を避難所で実施するのは恐らく不可能で、発熱者を別の場所に隔離するのが現実的な対応になるだろう。

 また、大規模災害が起きると、DMAT(災害派遣医療チーム)をはじめとする医療関係者、行政関係者、支援ボランティアらが県外から訪れる。彼らが感染を広めてしまう危険がある一方、支援がなければ被災者の命に関わるかもしれない。ボランティアが感染を恐れて集まらない可能性もある。

 幸い南海トラフ巨大地震のような大規模災害は起きるのが分かっていて、準備期間がある。避難所の感染症対策に向けた備蓄や場所の確保など課題を洗い直し、優先順位を決めて少しでも想定される被害を減らす手だてを打っていくしかない。

「運営ルール見直す機会」中野晋教授・徳島大環境防災研究センター長

中野晋教授

 体育館や公民館など多くの避難所は、災害時に避難者が押し寄せると「3密」になりやすい。徳島大環境防災研究センター長の中野晋教授は「行政や地域住民が避難所のあり方と運営ルールを見直す機会だ」と話す。

 行政に求められる取り組みの一つに避難所のスペース拡充がある。「例えば学校施設を開放することが考えられ、校舎の教室を活用すれば費用をかけずにスペースを広げることができる。校舎の使用できる場所などルールをあらかじめ決めておかないと本番で生かせない」と言う。

 避難所の過密対策を巡り、国や県がホテルや旅館の活用を検討するよう自治体に求めている。中野教授は「地域によって事情が異なる。例えば県内の中山間地域にそうした施設は少ない。避難所の候補を増やすためには民間の協力が必要であると同時に、地域や個人も避難所を増やしていく自助・共助が重要だ」と強調する。

 避難所に行かずに済む手段として、在宅避難のほか、地域の親戚や友人宅への避難が想定される。中野教授は「いずれも避難所に余裕をもたせる効果が見込め、感染リスクを減らすことにもつながる」と指摘。ただ、避難所には行政からの支援物資や情報を得る場所としての役割があるため、「自治会や自主防災組織などを通じて公的支援を届ける仕組みも考えておくべきだ」と提案する。

 その上で、避難行動について「災害発生時には命を守る行動を最優先することが大前提。感染を恐れて自宅にとどまり、自宅が被災して命を落とすことがあってはならない」と語った。

サブ避難所の確保を 県が対応方針策定

 新型コロナウイルスの感染終息のめどが立たないまま6月の出水期が迫り、避難所での感染症対策が喫緊の課題となっている。内閣府は4月、避難所での新型コロナウイルス対策を強化するよう都道府県に通知。これを受け、県は避難所での新型コロナウイルス感染症の発生やまん延を想定した対応方針を策定した。

写真を拡大 県の担当者(右端)から対応方針などについて説明を聞く市町村の担当者ら=4月21日、県庁

 方針では▷避難所以外に、消防団詰め所や集会所など「サブ避難所」の選定・確保▷グラウンドでのテント・車中泊や、親戚・友人宅、ホテル・旅館の活用など避難所以外への避難▷家族間で2メートル以上の間隔を保つため、必要に応じて間仕切りやテントを使う―などを検討項目として提示。5月末までに対策を検討するよう市町村に求めた。

 県は4月末、避難所での感染症対策費として3400万円を新たに確保。避難所で使う間仕切りやテントなどの購入費の半額を市町村に補助する。

 県によると、4月末時点で指定避難所が1105カ所あり、避難者1人当たりの居住面積は1・65~3・50平方メートル。対策の目安となる2メートル以上の距離を保つには十分な広さを確保できていない。

「シェイクアウト」避難訓練 集まらずに行動確認

 新型コロナウイルスの感染拡大で多人数が集まる催しの中止が相次いでいるが、行政や地域住民が行う避難訓練も集団感染が起こりやすい「3密」の条件を満たすケースが少なくない。「3密」を避けながら取り組める訓練の一つに、地震発生時の安全確保行動を確認する「シェイクアウト訓練」がある。日本シェイクアウト提唱会議(東京)は「感染のリスクが少なく、費用もかからない」と実施を呼び掛ける。

 訓練は自治体や教育機関、企業が主催し、個人がパソコンなどで参加する意思を登録しておく。あらかじめ決められた日時に、参加者がそれぞれ職場や家庭で▷姿勢を低くする▷机の下に潜り込んで頭を守る▷揺れが止まるまで動かない―といった行動を取る。屋外にいる場合はビルや電柱から離れて行う。

 提唱会議によると、今年は新型コロナの影響で、3月11日前後に予定されていた不特定多数の住民らが参加する集合型訓練の中止が全国的に相次いだ。提唱会議事務局長の澤野次郎さん(61)=公益財団法人日本法制学会理事長=は「新型コロナ禍の中でも地震は起き得る。今できる備えや訓練を考えるという意味で、自治体や地域が積極的に取り組むべきだ」と話している。