「人権講師にならないか」「起業しないか」―。こんな誘い文句で、性的少数者(LGBT)が高額セミナーの契約を結ばされ、解約になかなか応じてもらえないなどのトラブルが起きていることが30日、支援者らへの取材で分かった。

 ある弁護士は「LGBTの弱みに付け込む悪質な商法だ」と指摘。支援者は「すぐ契約せず、困ったら消費生活センターや弁護士に相談を」と呼び掛けている。

 性同一性障害で女性から性を変えた東海地方在住の20代男性は昨年9月ごろ、徳島県教育委員会で性的マイノリティーをテーマに人権教育指導員を務める30代の講師=徳島市在住=がインターネットで募集した起業家育成セミナーに関心を持ち、愛知県内のホテルで説明を受けた。この講師は女性として生まれたが性同一性障害に苦しみ、性転換手術で男性になった。

 「200万円のセミナーだが今契約すれば100万円。それぐらいぽんと稼げる」と勧誘された。男性は「『君ならできる』と何回も言われ、洗脳みたいだった」と振り返る。その場で月3万円の分割払いで契約。書類には「違約金は500万円」とあったが口頭での説明はなかった。

 男性は昨年10月から月1回程度のセミナーを受講。飲食店経営を希望していたものの、LGBTの相談業を勧められ、不満が募った。知人からの忠告もあり12月に退会希望を伝えたが、今年2月まで連絡はなく、解約に応じてもらえないまま受講料は引き落とされ続けた。同月、弁護士と作ったメールを送り、やっと退会手続きができた。

 LGBT支援法律家ネットワークの堀江哲史弁護士は「受講料、違約金が高額で悪質」と批判。「LGBTは就職がうまくいかなかったり、職場で居心地の悪い思いをしたりする人が多く、起業が魅力的に映ることを利用したのだろう」と指摘する。男性は「(LGBTである)『弱みを生かして強みにする』と言われ、付け込まれてしまった」と話した。

 問題を指摘されているセミナー講師は、性同一性障害への理解を求めるNPO法人や一般社団法人の代表として活動。徳島県内外の学校などでの啓発セミナーで講師を務め、性同一性障害に悩んだ自らの半生を振り返る本も出版している。

 徳島新聞の取材に対し「契約内容は説明したし、講座以外にも個別相談などでサポートし、対価に見合うサービスは提供した。無理な勧誘や強要はしていないし、LGBTを狙ったことはあり得ない」と話した。解約に応じなかったとの指摘には「途中退会でも全額を支払う約束だった」とした。