新型コロナウイルスの感染予防のための学校休校措置が始まって約2カ月。異例の長期休みが続く中、在宅の児童生徒を対象に学習の遅れを取り戻すためのオンライン授業が始まるなど、教育現場での情報通信技術(ICT)を活用した取り組みに注目が集まる。県内でも県教委や東みよし町教委が独自の動画を準備し、家庭学習のサポートや生活リズムの改善を進めている。県内の事例を紹介する。 

 

県教委 授業形式でポイント開設

 「私は野球が好きです。あなたは何のスポーツが好きですか」「私は水泳が好きです」。4月下旬、県立総合教育センター(板野町)で県教委の女性職員と外国語指導助手(ALT)の男性が休校中に役立ててもらう家庭学習教材を収録していた。

写真を拡大 家庭学習用の教材を収録する県教委職員=板野町の県立総合教育センター

 撮影していたのは、小学5年向けの外国語。教師役の2人がビデオカメラの前で英語で自己紹介し、相手の名前や趣味などを聞く際のフレーズやポイントを説明する。カメラに向かってフレーズを復唱するよう求めたり、児童が練習する時間を設けたりする場面も。撮影中は何度もカメラを止め、「もっとゆっくり話してはどうか」「ジェスチャーを入れると雰囲気が出るのでは」などと改良点も指摘し合い、1時間かけて7分間の動画に仕上げた。

 これまでに小学1年から高校2年までの各教科計57本(各6~10分間)を完成させた。職員約30人が出演し、4月に習う教科書のテーマに沿って授業形式でポイントなどを解説。学習の狙いや進め方、問題も電子黒板に映し出し、画面には専用ソフトを使って字幕を加えた。タブレット端末などで視聴する児童生徒が利用しやすい工夫を取り入れている。

 投稿サイト「ユーチューブ」の「徳島県チャンネル」で配信しているほか、視聴できない児童生徒向けに11日からケーブルテレビ(CATV)で放送する。

 休校中の家庭学習は、学校から配られた教科書やプリントなどの紙媒体が中心となっている。県教委は紙媒体よりも授業に近いため学習意欲を保ちやすいとして企画した。各校の参考にしてもらう狙いもあるとしている。

 同センター学校経営支援課の石丸憲治課長は「動画は一方通行になりがちな面があり、子どもが集中力を持てるような工夫は必要だろう。ビデオカメラと編集ソフトがあれば作れるので、各校の動画作りに役立ててほしい」と話した。

 

東みよし町教委 生活リズム整える契機に

 東みよし町教委は4月15日から同月末まで「おはようプロジェクト」と題し、休校中の小中学生の生活リズムを整える応援番組(約10分)をCATVで放送した。全6校の教職員が一丸となり、趣向を凝らした企画で笑顔を届けた。

写真を拡大 東みよし町教委が制作した応援番組を見ながら家庭学習に取り組む児童=同町足代

 合言葉は「子どもに元気を」。内容は漢字や地図記号、気象知識の問題をクイズ形式で出題したり、バンダナを使ったマスク作りやストレッチ体操を披露したりとさまざま。教職員がアイデアを出し合い、参加型の番組に仕上げた。

 町教委は休校が長引く中、児童生徒がゲームや動画サイトの過度な利用などで生活リズムを崩していないか心配していた。そこで、4月末までの平日(金曜除く)午前8時半から全校の教職員が元気な姿をテレビで見せ、生活を整えるきっかけにしてもらうことにした。

 ドリル教材などで一日4時間勉強している足代小2年の男児(7)と5年の兄(10)は「朝から先生の顔を見ることで学校に行っている気になる。問題を解くのが楽しく、勉強のスイッチが入った」と話す。

 町内ではインターネット環境を備える世帯は限られ、加入率が高いCATVを活用した。学校ICT教育支援員の谷藤裕美さん(44)は「各学年に応じた学習動画を提供するには番組枠に限界がある。さらに学習支援を充実させるにはネット環境の整備が欠かせない」と話している。

 

独自動画の作成・提供は7市町教委

 休校中の児童生徒を支援する独自の動画を提供しているのは4月末時点で東みよしを入れても7市町教委にとどまる«表参照»。教科の指導や英語で町の魅力を学ぶ内容、体力づくりが中心で、

学習意欲や学校との関わりを維持するのが狙い。提供していない市町村教委は一律の視聴環境が整っていないことを理由に挙げた。

 東みよしを除く23市町村教委に独自の動画を作成して活用しているか聞いたところ、3市3町が「はい」と回答。残り5市12町村が「いいえ」とした。

 阿南市は4月下旬から、小学生向けに授業形式の動画を投稿サイト「ユーチューブ」で配信している。中学生に比べて家庭での学習に慣れていない児童を支援するのが目的という。担当者は「プリント学習だけでなく、動画教材も選択肢に入れ、意欲を高めたかった」と話す。

 美馬市は、小中学生を対象に英語の番組3種類を5月からCATVで放送。ALTらが町を巡り、川遊びや菓子作りなどを体験するドラマ仕立てとなっている。担当者は「英語を聞き取り、話す能力の習得は自主学習では難しい。動画を使えば楽しくネイティブの発音に触れる機会をつくれると考えた」と説明する。

 「身近な教員がモデルになることで子どもに『いつも見守られている』という安心感を届けられる」と話すのは松茂町の担当者。松茂中学校の保健体育教員が体力づくりに役立つ体幹トレーニングをホームページで紹介している。

 「独自の動画を作っていない」と答えたつるぎ町は「ネットワーク環境が全生徒に整備されていない」とし、藍住町も「ICT機器の整備状況が家庭ごとに異なり、学校にノウハウもない」と理由を挙げた。「県教委の動画教材があるので独自には考えていない」(勝浦町)などの意見もあった。

 

自分のペースで学べる

鳴教大院・泰山裕准教授(情報教育学)に聞く

泰山裕准教授

 ー新型コロナウイルスの影響で県内でも休校が長引く中、オンライン授業へのニーズが高まっている。

 文部科学省は全国の小中学生に1人1台のパソコン端末を本年度末までに配備する方針だが、県内での整備はまだ時間がかかりそうだ。もっと早く配っていればオンライン授業に取り組めていたはずで、休校中の家庭学習のやり方は違っていただろう。

 ーオンライン授業のメリットは。

 距離と時間の制限がなくなる点が魅力だ。遠隔地でテレビ会議システムを使えば教室と同じ学習機会をつくれる。内容が分からなければ、録画した動画を何度でも見直して自分のペースで学べる。大学や県外の学校とつなげば学びの環境が広がる。休校が続く今こそ有効ではないか。

 ー導入には何が必要か。

 言うまでもなく、オンラインで学ぶためのパソコンやタブレット端末などの環境整備が欠かせない。県外の先進校では1人で2台持っている。オンラインで授業を受けながら、別の端末で仲間とやりとりして議論を深めていくといった具合だ。県内では家庭のインターネット環境に差がある。環境の違いによる学力差を生まないよう、行政の支援が必要。早くパソコン端末を配備するか、それが無理なら学校から貸し出すかして少しでもオンラインで学べる環境をつくるべきだ。

 ー小学校では本年度から全面実施される新学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)が取り入れられる。

 アクティブ・ラーニングは児童らが何を学ぶか考え、選択する能力が求められる。そこからさまざまな人と対話して課題の解決策を見つけていくことが深い学びにつながる。こうした学びに慣れていないと、オンラインで取り組むのは難しいだろう。しかし、やっていかないと遅れるばかりだ。大学の付属校や私立校では既にいろんな手法が試されている。改善方法や成功例がインターネット上で紹介されている。参考にしてほしい。