「なぜ岩手でコロナが出ないの」「検査を絞っている」。全国で新型コロナウイルス感染症が拡大する中、島根、鳥取両県と共に感染者ゼロとなっている本県の状況への疑問が、特命取材班に寄せられている。県民や医療関係者からは本県の低い人口密度のほか、手洗いや外出自粛を励行する「真面目な県民性」があるとの見方も。一方、人口当たりのPCR検査数は本県が全国最少。医療関係者からは「本当に感染者がいないのか」と指摘する声も聞かれる。
県内の帰国者・接触者相談センターへの相談状況は3日現在で計2399件。県によると、県内の検査は7日午前1時10分現在、計104件で全員が陰性となっている。
厚生労働省などによると、本県の人口に対する検査人数(5日現在)は0・006%で全国最低。次に低い神奈川県(0・012%)とも大きな差がある。
感染者がゼロで検査人数に対する割合を他県と比較できないため、達増知事は1日の記者会見で「検査が足りないとは言い切れないし、十分という確信も持てないが、検査は適切にしており、県民の命と健康は守れている」と述べた。
県内の医療関係者は▽本県は鳥取、島根両県と同様に人口密度が低い▽内陸と沿岸の生活圏に距離があるため人口移動も少ない―などとし、広大な県土が感染拡大を防いでいる可能性を指摘する。
久慈市長内町の会社員平坂鴻樹さん(22)は「まじめで勤勉な人が多いので、マスクの着用や手洗いをしっかりやっているからだろう」とうなずく。
現在の基本的な検査までの流れは、帰国者・接触者相談センターが電話相談に対応し、状況に応じて帰国者・接触者外来(非公表)で診察を受ける。結果を踏まえ、専門医が必要と判断した場合に検査となる。専門医の指摘があるゆえに、実際に検査となれば陽性となる確率は高いとの見方もある。
宮古市で内科診療所を営み、2007年には市長として新型インフルエンザの対応方針策定に当たった熊坂義裕医師(68)は「37・5度以上の熱が続くか海外渡航歴がある場合などを除いて『様子を見てください』と言われ、患者は検査を受けずに普通の病院や診療所を訪れてしまう。他の患者やスタッフに感染したら大変なので、車内で待ってもらったり、院内で動線を分けたりと、ものすごく気を使って診療している」と打ち明ける。
国は医療崩壊を防ぐため検査対象を限定する方針を続けているが、特命取材班には「感染者を放置し感染爆発が起これば、逆に医療が崩壊してしまう」という不安も寄せられている。
熊坂医師は「医療者を含む多くの県民が不安を感じており、一層の情報公開と丁寧な説明が求められている」と語る。
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