「アルバイトの収入がゼロになった」「授業料が重荷」-。新型コロナウイルスの感染拡大で生活が苦しくなった大学生から「あなたの特命取材班」にSOSが相次いでいる。大学によっては緊急支援金を出すケースはあるが、あくまで一時的なもの。緊急事態宣言の延長が決定的となる中、「このままでは学生生活が成り立たない」と、若者たちは苦悩を深めている。
「バイトを突然解雇されました」。佐賀県出身で、大阪の私立大学に通う4年生の男子学生(21)の声は悲痛だった。
実家からの仕送りを抑えようと、コールセンターのアルバイトで月に8万~10万円を稼ぎ、1人暮らしの家賃や食費などに充てていた。ところが4月に入ると会社は経費削減を理由にいきなり解雇通告してきた。
緊急事態宣言下で新しいバイト先は簡単に見つからない。収入が減ったため、家賃は親に肩代わりしてもらうことになったが「長くは頼れないです」。
既に始まった大学の授業はオンライン講義。そのために準備したWEB用カメラの購入費に大学の補助はない。「バイトが見つからないと6月から収入がゼロになる」。不安は収まらない。
全国大学生活協同組合連合会の2019年調査によると、親元を離れた学生のアルバイト収入の平均は3万3600円。4年連続で上昇している。関西の大学などでつくる一般社団法人「大学スポーツコンソーシアムKANSAI」が4月、全国の大学生に実施したオンライン調査(有効回答約1400人)では、5割以上の学生が今後、「家族収入」が減少すると答え、自身のアルバイト収入も4分の3の学生が減るとの見通しを示した。また、6割の学生が経済的不安を感じていることも分かった。
IT設備をそろえる余裕なく
そうした調査結果を裏付けるように、関西の大学に通う4年生の男子学生(23)は「自分だけでなく、世帯全体が危機」と打ち明ける。アルバイトはカーシェアで使う車の清掃員。外出する人が減ったためシフトを減らされ、収入は半減した。一方、福岡県の実家の父親も、コロナ禍の余波で転職先の内定を取り消された。実家には経済的に頼れる状況にない。
目下の懸念は就職活動だ。企業説明会の中止で急速に広がるオンライン面接。パソコンを持たない男子学生は大学の備え付けのものを利用してきたが、キャンパスには5月末まで入れない。私用のスマートフォンを使って試みた企業関係者とのテレビ電話のやりとりも、性能面から映像の送受信ができなかった。今、新たな機器をそろえる余裕はなく「就活で不利にならないか」と焦りは大きい。
文部科学省は世帯収入が大幅に減った学生に対し、一定の条件が認められれば給付型の奨学金などを受けられる制度の活用を呼び掛ける。男子学生の場合、収入が基準をわずかに上回るため、無利子とはいえ返済が必要な貸与型の対象となった。「大学進学時に借りたローンの返済などもあるし、生活実態はもっと厳しい。卒業後も見通せない中で借金は避けたいのに」とため息をついた。
大学は4月末、全学生に5万円の支援金給付を決めた。男子学生は支援金に感謝しつつ「正直、一瞬でなくなる。全く足りない」。
「授業料だけ変わらないなんて」
学生たちの不安やいら立ちの矛先は大学の運営にも向かう。「対面式のオンライン授業はまだほとんど受けられていません。でも授業料だけ変わらないなんて」。福岡県の私立大学に通う女子学生(19)は不満を口にする。
大学側は5月6日まで遠隔授業としているが、教員が対応できない状況が続いた。女子学生が受講する前期講義約20こまのうち、ウェブ会議を利用した対面式の授業は1こまだけ。語学に力を入れたい女子学生にとって、対面の授業が少ないことは不満だ。
教員にメールを送り、助言をもらったものの、大学の図書館には入れず、大きな書店は休業。薦められた専門書は満足に読めない。
オンライン授業に向けて通信環境を整えた。ただ、通信料はデータ量に応じて課金する従量制で、期間が長引くと同居する親の負担が大きくなる恐れがある。4月にアルバイトを解雇され、これまでの奨学金の返済などに充てていた月約5万円の収入も途絶えたままだ。そんな状況でも、大学の授業料は5月末までに支払わなければならない。
学生の実態調査などに取り組む学生団体「高等教育無償化プロジェクト FREE」によると、収入減により2割を超える学生が退学を検討しているという。女子学生は訴える。「それぞれ家庭の背景が違う中で、みんなが大変な思いをしている。せめて全ての大学生に一律の給付や授業料の減免をしてほしい」
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