現役時代の宮崎光平氏=©TOKUSHIMA VORTIS=

 J2徳島ヴォルティスの過去の名場面を紹介し、キーマンや関係者に「あの時」として振り返ってもらう「ヴォルティスアーカイブ」。第1回は、J1昇格を決めた2013年のJ2リーグ戦最終節・長崎戦を取り上げる。

 J1昇格プレーオフ(PO)圏内の6位(勝ち点64)でこの試合に臨んだ徳島にとって、勝てばPO進出を決められるものの、引き分け以下なら7位札幌、8位松本の結果試合で進出が消えるという大一番だった。先へ進むためには勝利が求められた4位長崎との直接対決は、徳島が粘り強い守備と相手の急所を突く攻めを見せ快勝。4位でPO進出を決め、その後の昇格の歓喜へとつなげた。この決戦で決勝点を挙げた宮崎光平さん(39)=徳島ヴォルティス営業推進部=に、当時の心境やチームの雰囲気を聞いた。

 ▼長崎(1勝1敗)11214人
 徳島1(0-0、1-0)0長崎 ▽得点者【徳】宮崎(3)

 大一番で本領を発揮した徳島イレブン

 [評]粘り強い守備と相手のウイークポイントを狙った攻めを見せた徳島が4位でPO進出を決めた。前半は相手の激しい寄せにリズムと攻撃の形が作れなかったものの、無失点でしのいだ。

 ボランチに斉藤を入れ、柴崎を前戦に上げた後半は徐々にプレスをかいくぐり好機を創出。相手3バックの隙間を狙いながら22分、左のアレックスのパスを柴崎が折り返し、走り込んだ宮崎が決勝ゴールを決めた。シュート17本を浴びながらも得点を許さず、前回対戦で敗れた長崎に雪辱した。

 猛攻を耐え生まれた値千金ゴール

 鍛え、積み上げ、泣き、笑い、そして勝ち取った。ひたむきな思いの結集が大きな破壊力を生むことを示した自力でのPO進出決定。徳島の覚悟が表れた勝利だった。 

 思った以上に長崎のプレスが鋭い。前半はボールが回らずシュート0。逆光の下、それでも勝利の女神の笑みを探し求めて全員が足を動かし、体を張った。きれいな試合ではなく、局面で負けないゲーム。橋内は「そこはぶれなかった」と胸を張った。

 「勝ち切らなければれば上はない」。PO進出争いが風雲急を告げる中、そう繰り返してきた小林監督が勝負のカードを切ったのが後半15分。展開力のある斉藤をボランチに投入し、前線で球を収めてキープできる柴崎を初めてトップ下に移した。

 押し込む場面が増える。迎えた22分。冷静な斉藤のためからアレックスのパスを柴崎が頭で落とし、前節の東京V戦で決定機を外した宮崎が執念でねじ込んだ。宮崎は「取り返したかった。絡めてうれしい」。小躍りした指揮官は「思い切ったところが出た」と選手をたたえたが、郷里のピッチで映えたのは積極的に試合を動かした絶妙の采配だった。

 猛攻をはね返し、3人目の動きも絡んで好機をものにする。しぶとい守りという横糸と、連動した攻めという縦糸が織り込まれたユニホームを着るチームは、大一番でも本領を発揮。昨年味わえなかった晩秋の陽光を笑顔で浴びた。長崎出身で両親の観戦試合は2戦2勝の柴崎は「プレーオフをホームでやれる。声援を力に変えて勝つのみ」。鳴門での最終戦で「帰ってくる」と約束した戦士たちの本当の戦いがここから始まる。=2013年11月25日掲載=

 「もう負けることはないな」。劇的弾の男が明かす、苦しんだ末の勝ち点3で得た自信

 「あのゴールはサッカー人生でも一番と言っていいほど記憶に残っている」と宮崎さん。後半22分、チームのJ1昇格プレーオフ(PO)進出を決めることとなる殊勲弾の喜びは7年近くが経過した今でも鮮明だ。

 「GKの股を抜いたが、その後もDFが来るのが見えたので阻止されるのかと思った」と覚悟したが、相手がクリアに失敗。ボールは、願いを乗せてゴールに吸い込まれた。前節の東京V戦で決定機を外した反省の中でのゲーム。「大事な試合で勝ち点3につながる得点を決められて良かった」と、しみじみ振り返った。

 長崎の激しい守備の前にほとんどチャンスをつくれずにいたが、選手たちに焦りはなく、むしろ無失点で耐えていたことに手応えを感じていたという。「事前の分析から、相手にボールを持たれて我慢する時間が長いゲームになることは想定していた。ハーフタイムのロッカールームでも、『悪い内容じゃないよ』と言い合ったし、ネガティブな声はなかったんじゃないかな」と明かす。

 PO進出へ勝たなければならない試合。後半15分、小林伸二監督が打って出た大胆策も「晃誠(柴崎)が前に出ればボールが収まり、攻撃の形がつくりやすくなる。1点を取るというメッセージが分かりやすくて、やりやすかった」。それまで練習でも試したことのない新システムだったが、指揮官の狙いをピッチの選手も把握していた。

 宮崎さんは「J1に昇格できたから言える話だけど」と前置きし「この試合を勝ち、チームはもうこのまま負けることはないな、と確信めいたものがあった」と打ち明ける。会心の決勝ゴールもさることながら、長崎に17本のシュートを浴びながらも全員が体を張り無失点。守備を生命線にリーグ戦で劇的な巻き返しを見せたチームが、土壇場のゲームでも誰一人ぶれることなく強みを発揮し続けた。それが確信の理由だった。

 ちなみに最終節のこの決勝点、公式記録では宮崎さんのゴールだが、後日、本当にボールに触れたかどうかが話題になった。宮崎さんは笑って言う。「(ボールに)触ったかも。これが僕の答えです」。曖昧にも聞こえるが、ごまかしているわけではない。あの場面でしっかりとゴール前に詰めていた「真実」があり、俊敏アタッカーとしての誇りがある。

 宮崎光平(みやざき・こうへい)1981年2月6日生まれ。熊本県出身。広島、福岡、山形を経て2012年に徳島へ加入。14年シーズン終了時に退団し現役を引退。15年にフロント入りし、営業推進部の営業スタッフとして業務に励んでいる。