新型コロナウイルス対策として国民に一律10万円を配る特別定額給付金を巡り、夫と別居できていないドメスティックバイオレンス(DV)被害者から「自分の分も夫に取られる」といった相談が、支援団体に寄せられている。世帯主に一括給付する仕組みが、個別に受け取りたい被害者にとっては不都合に働いており、給付方法の改善を求める声が高まっている。

 DV被害者支援に取り組む一般社団法人「白鳥の森」(徳島市)には、給付金の支給が始まった今月中旬ごろから毎日、相談が寄せられるようになった。

 夫から暴力を振るわれている女性は「世帯主宛てに振り込まれるのだから、全て自分のものだ」と言われた。生活費を渡されず、自身のパート代だけで家計を支える女性にとって、給付金は命綱だ。相談員は家を出て子どもの分と併せて個別で受け取るよう勧めたものの、「何をされるか分からず怖い」と避難できていない。

 別の女性は給付金を資金にして子どもと逃げることを計画する。「夫に土下座して頼み込むしかない。ただ、もらえるかどうか分からない」と不安がっているという。

 国は避難している被害者には給付金が個別に渡る措置を取っている。しかし、経済的理由や恐怖心から夫と暮らさざるを得ない人も多い。野口登志子代表理事は「経済的DVなどでもともと困窮している被害者は多く、新型コロナの影響で状況は深刻化している。そもそも国民全てに配られるお金を、夫からもらう形になる仕組み自体が不条理だ」と憤る。

 国は手続きの簡素化や迅速な給付を理由に個人給付は導入していない。世帯単位で一括給付する手法は、東日本大震災での義援金の支払いなどでも使われた。ただ、DVだけでなく虐待被害者や障害者ら、家庭内で弱い立場にある人が受け取れないケースがあるため批判が多い。

 オハナ法律事務所(徳島市)の永本能子弁護士によると、今回の特別給付金の場合、世帯主が独り占めしたとしても、強制的に他の同居家族に渡させる手だてはほぼない。永本弁護士は「全ての家庭がうまくいっているわけはなく、経済的に搾取されている人はいる。個人給付に変更するべきだ」と話している。

 特別定額給付金 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、国が4月27日時点で住民基本台帳に登録のある全ての国民に一律10万円を給付する。申請、受給権者は世帯主。総務省は避難しているDV被害者に対しては▽DV防止法に基づく保護命令が出されている▽支援団体などが発行する証明書がある▽住民基本台帳の閲覧制限など支援措置の対象になっている―のいずれかの条件を満たせば、個別に受け取れる措置を取った。加害者と同居中のDV被害者に対しても個別に給付するよう女性支援団体などが求めているものの、国は対応していない。