応募締め切りまであと10日となった「第3回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」。最終選考委員で芥川賞作家の吉村萬壱さん(59)=大阪府貝塚市=と小山田浩子さん(36)=広島市=に、激励メッセージをもらった。

 

人生と一続きの何かを 頼りになる過去の自分 吉村萬壱さん

 私はいつも締め切りギリギリにならないと書き出さないので、まだ書けていない応募者の気持ち

 吉村萬壱さん

は大変よく分かる。

 経験上言えることは、今までの自分が持っていた力を超えた傑作を書いてやろうという意識は、役に立たないということだ。これまで自分が生きてきた歴史から断絶した傑作など、幻想にすぎない。もし残り10日で良い作品が書けるとすれば、それはきっと今までの人生と一続きの何かであるに違いない。

 そこで一つ裏技をお教えしよう。途中まで書きかけてほったらかしにしている小説はないだろうか。3枚とか5枚とか。その中で、おや?と思うものが一つでもあれば、それを書き継いでみてほしい。その時は最後まで書けなかったものが、完成されるべき時機を迎えている可能性がある。それは間違いなく自分の一部だったものだ。

 0から書くのは大変でも、1や2から始めればきっと書ける。過去の自分は、意外と頼りになるものだ。

 よしむら・まんいち 1961年松山市生まれ。2001年「クチュクチュバーン」で文学界新人賞。03年「ハリガネムシ」で芥川賞。16年「臣女」で島清恋愛文学賞。父親が小松島市出身。

 

 

1行から何かが広がる 現状での気付き生かして 小山田 浩子さん

 緊張し落ち着かない生活を強いられている現在、物理的な忙しさ以上に精神的な負担が大きく、

小山田浩子さん

書くことを最優先にできなくて当然と思う。でも、もしそれでも何かを書きたいと思うなら、少しでも、書けなくても、書こうとすること。違うなと思いながらでも1行書いてみること。そこから突然、あるいはじわじわ、何かが広がり始めることもある。

 感染症によって多くのものが浮き彫りになった。国の体たらくには驚くばかりだが、県によって陽性者数が違い、検査数も違い、補償や規制などの対応も違い、その結果生じた格差によって、各地域行政の、住民の、土地の空気感の、その地金のようなものが露呈してはいないだろうか。

 もし何か気付いたことがあるなら、多分この文学賞の作品に生かせる。仮に現在が舞台でなくても、それぞれの場所で、それぞれの立場で、今、感じていることをうまくのせられたら、必ず面白い作品になる。楽しみにしています。

 おやまだ・ひろこ 1983年広島市生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞。13年、同作で織田作之助賞。14年「穴」で芥川賞。18年、短編集「庭」。夫は徳島県出身

 

6月10日まで全国公募

 「第3回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」(徳島文学協会、徳島新聞社主催)の応募締め切りが6月10日(当日消印有効)に迫った。5月29日時点の応募は117点となっている。

 阿波しらさぎ文学賞は、徳島の地域活性化を目的に2018年創設された全国公募の掌編小説コンクールで、第1回は422点、第2回は426点の応募があった。徳島の地名や文化、歴史、産業などを作中に登場させるのが条件となる。400字詰め原稿用紙15枚以内という初心者でも応募しやすい手軽さが魅力で、年齢制限も設けていない。

 大賞の「阿波しらさぎ文学賞」の賞金は30万円。徳島出身または在住者から選考する「徳島新聞賞」(10万円)と、25歳以下を対象にした「徳島文学協会賞」(3万円)も設けている。

 最終選考委員は、父親が小松島市出身で芥川賞作家の吉村萬壱さんと、夫が徳島県出身で芥川賞作家の小山田浩子さん。徳島文学協会による1次選考を経て、8月に受賞作が発表される。受賞作は徳島新聞紙上と電子版に全文掲載されるほか、来年発行される徳島文学協会の文芸誌「徳島文學」にも転載される予定だ。

 応募要領と過去の受賞作は徳島新聞電子版に掲載されている。