練習の合間に男子部員と談笑する、県内唯一の女子高校野球選手の吉本(左)=阿波高グラウンド

 徳島県内唯一の女子高校野球選手である阿波高野球部3年の吉本りりか二塁手が、7月11日開幕の県高校優勝野球大会で始球式を務める。公式戦の参加資格は男子にしかなく、背番号を付けたことはないが、練習では男子と同じメニューをこなし、技術を磨いてきた。原動力は「野球が大好き」という一点。最後の夏舞台で鍛錬の成果を一球に込める。

 身長161センチで、堅実な守備が持ち味。「女子だからと特別扱いされたくない」と、練習が終わった後も残って打撃や守備のレベルアップに励んできた。鳴川真一監督は「チーム一の努力家」と評する。

 大会前、ベンチ入りメンバーの発表で吉本の名前が呼ばれることはない。「悔しい思いもあるけど、試合に出られないのは覚悟している」。練習試合ではベンチサイドから仲間を鼓舞し、プレーの一つ一つをよく観察する。気付いた点は、自ら「勝利の女神」と題名を付けた野球ノートにびっしり書き込んでいる。

 昨年9月の県秋季大会後、吉本の指摘がチームを変えた。

 チームは1回戦を勝ち上がったものの、2回戦は阿南高専に1―11で大敗。数日後のミーティングで吉本は切り出した。「どんな状況にも動じず冷静な打撃をしてほしかった」「未完成な自分に気付いてもらいたい」。常に笑顔を絶やさない吉本が話しながら初めて仲間の前で涙を流した。「試合に出られない自分の分まで頑張ってほしいとの思いが出た」と言う。

 それ以来、仲間同士で厳しいことを言い合えるようになった。岡島辰磨主将は「チームの成長をもたらした。部員一人一人のことを本当によく見てくれている」と感謝する。

 阿波市の八幡小3年の時に野球を始め、6年では県女子選抜チームのメンバーとして全国制覇を経験。市場中でも野球を続けた。

 父と3歳上の兄が阿波高野球部出身ということで、自分も同校に入学。春休みに野球部の体験練習に参加したが体力的に厳しいと感じ、入部は断念した。しばらくバスケットボールに打ち込んだものの、野球を諦めきれず、8月に野球部に入り直した。

 県高野連監督会の申し合わせで、女子選手は練習試合にも出場できなかった。鳴川監督は吉本の努力に報いたいと昨年6月、11月と監督会に2度掛け合い、出場が認められた。

 11月下旬に同校グラウンドであった吉野川高との練習試合にフル出場して2安打を放った。吉本は「全力でプレーした。高校に入って一番うれしかった」と振り返る。

 消防士を目指しており、卒業後は野球に一区切りを付ける。「両親を含め、阿波高野球部でいろんな人に支えられたからこそ、ここまで続けてこられた。始球式では感謝の気持ちを込めて投げたい」と力強く語った。

 新型コロナウイルス感染症の影響で今夏の全国高校野球選手権大会が中止となったため、徳島県高野連は独自に県高校優勝野球大会を開く。さまざまな思いを胸に大会に臨む選手や指導者、チームを紹介している。